*define nsa clickstr "。!?)」",6 rmenu "ウィンドウを消す",windowerase,"セーブ",save,"ロード",load,"回想",lookback,"タイトル",reset effect 2,5,500 effect 3,5,2000 ;マウスホイール usewheel textgosub *text_cw humanz 900 windowback defsub setcursor caption "窓際のアイツ" game *start bg black,1 mpegplay "ma_op.mpg", 0 *title_btnloop bgmstop bg black,1 \ select"・はじめから",*new,"・続きから",*load,"・おわる",*exit *exit !w500 vsp 1,0;print 10,1000 !w1000 end *load systemcall load:goto *title_btnloop *new bg "bg\教室.jpg", 1 bgm "bgm\冒頭\tw021.mp3" 4時間目の数学の授業というものは、腹を空かせた男子生徒にとって最も過酷なものである。@ 特にこの「微積」というやつは厄介なもので、答えにたどり着くまでに膨大な時間を必要とする割に、最終的に出た答えを見ても達成感がまるで感じられない、徒労感を無限に生み出す装置のようなものである。@ しかも数学は、それ自身が教師の話のつまらなさと疲労が比例しているという。@ つまり何が言いたいのかというと、俺のHPは限りなく0に近い状態であったということだ。\ (そもそも訳わからん数値をわざわざ求めるより、俺はむしろこの昼休みに購買のパンが残っている確率の方が気になるんだが。@そっちの方がよっぽど実用的だと思うが…)@ まあ、それはそうとして。 黒板に次々と並べられていく数字の羅列には目もくれず、ただ俺は黒板の上に掛けられた時計とのにらめっこに夢中だった。\ 時計というものは不思議なもので、待ってほしい時間ほど残酷にもその針を早めるが、過ぎ去ってほしい時間ほどその針のスピードを緩め、逸る気持ちを無理やり抑えてくる。 要するに天邪鬼である。人間をあざ笑っているようで、気づいてしまった手前なおさら質が悪い。 教師の唱える呪文によっていくらか眠気は回っていたはずなのだが、ここにきて空腹が痛手となり眠気に素直に負けることもできず、非常に退屈な時間を過ごす羽目になってしまった。 (…くそっ、2時限目に先生の手伝いなんてさせられなければ早弁も済んでるし、ここまで苦痛じゃなかったはずだ) そんなことを考えながら、露骨に時計を睨み付けて秒針を目で追う作業に勤しむ。 先生「―――い、おい、斉藤!聞いているのか?」 斉藤「ぅおあ、はい!」 先生「しっかりしろよォ、じゃあ、この問題を黒板に解いてくれ」 いつの間にか当てられていたことを、今になって気づいた。 斉藤、というのは俺の名字である。 のろのろと黒板の前に立って数字の羅列を眺めて、一息つく。 そして思い切り振り返り、\ 斉藤「サーセン、話聞いてなかったっす☆」 先生「おい斉藤〜、しっかりしろよ〜。お前どうせ、外で体育やってる女子の姿でも眺めてたんだろ?ん?」 ちょっと茶目っ気を出してポーズまで決めてみたが、間髪入れず入ってきた教師の要らない茶々のおかげで失笑ムードが漂っていた。 というかそれ以前にこの時間に寝ている人が多すぎて、反応すらピクリともしない者ばかりである。 これじゃまるで、俺がスベったとでも言われているようではないか。 (……くそっ、最悪すぎる……) またのろのろと席に着く。 (そもそも、こんな時に限ってなんで俺を当てるんだよ。他の奴が寝てるからってわざわざ数学嫌いの生徒に当てる必要もないだろ) 軽く教室を見まわしながらため息をついた。 (当てるならもっと頼りがいのある奴にしてくれよ。学級委員長なら真面目だから居眠りなんてしてないだろうし、前の方に座ってる女子だって起きてるみたいだし……だいたい、この教師は教室の真ん中にいる生徒ばっかり当てすぎなんだよな。もっと廊下側とか、窓際とかにも当てれば―――) bgmstop 窓際に視線をやってから、はたと気付く。 dwave 2,"se\st004.wav" 窓際の席で机に突っ伏して、ピクリとも微動だにしない影が見える。 (あれ……アイツ、誰だっけ?) 席替えをしたばかりなのもあって誰がどこに座っているのかがあまりはっきりと分からないが、クラスメートの顔と名前くらいはすぐに出てくるはずだった。 しかし、この窓際に座る『アイツ』が誰なのか、何故かまったく見当がつかない。\ (駄目だ、考えれば考えるほど、誰なのか分かんなくなってきたぞ) select "A:授業の終わりまで『アイツ』が誰なのかについて考える。",*a,"B:あと少しなので授業に集中する。",*b,"C:授業中に正体を突き止めてやる。",*c *a よし、『アイツ』が誰なのかを考えることにしよう。 その方がこのまま授業を受けているよりも、ずっと有意義な時間を過ごせるはずだ。 bgm "bgm\黒.mp3" やっぱりまずは観察だよな。 俺は『アイツ』を観察することにした。 『アイツ』は男子の制服を着ているな。ということは男子であることは9割方間違いないだろう。残りの一割は何らかの理由で女子が男子の制服を着ている場合だ。小学校だって女の子が黒いランドセルを背負って登校するような時代だ、男子の制服を着ている女子高生が居たっておかしくはないだろう。\ 顔は中性的で男にも女にも見え、なかなかの美形である。こんな目立つ顔立ちをしたクラスメイトを果たして忘れるだろうか。もしかしたら、誰かと入れ替わっているのかもしれない。 いや、でももし入れ替わっているとしたら他のやつが気付くだろう。 誰も反応しないということは、みんなには見えていないんじゃないだろうか? そうだとすれば、俺以外のやつらが反応しないのもうなずけるってもんだ。 『アイツ』がみんなには見えていないことを確認する方法は何かあるだろうか? 誰かに聞いてみれば話は早いけど、もし本当に見えていないとしたら俺が気違いに思われるからな。できれば避けたいところだ。\ 先生「うぃ〜、プリント配るぞ〜」 うお!ナイスタイミング! これで『アイツ』がプリントをもらえるかどうかで、俺以外に見えているかわかるぜ。あの先生もたまにはやってくれるぜ! おっ、『アイツ』の前の席にプリントがいったぞ。さて、どうなる??\ bgmstop 何てことだ…、普通にプリントをもらっていやがる……。そして当然のように後ろの席の人にプリントを渡している。 どういうことだ?みんなにも見えているということは、単に俺がアイツが誰かを忘れているだけなのか? いや、そんなことはない。これは単に俺が忘れただけとかそういう単純な話ではない。俺は『アイツ』のことを「知らない」のだ。\ 俺は『アイツ』が誰か分からない。そしてクラスメイトは特に『アイツ』を気にしている感じは無い。この状況が指し示していることは、つまり@ A:『アイツ』は魔法少女だ! B:俺は魔法少女だ! え?選択肢これだけ?! 俺バカなの?死ぬの?? いくらなんでもそりゃないでしょ?!\ 何か悲しくなってきたけどしょうがない。ままよ! select "A:『アイツ』は魔法少女だ!",*a09,"B:俺は魔法少女だ!",*a10 *a09 bgm "bgm\tw012.mp3" 『アイツ』は魔法少女だ! 『アイツ』が魔法少女であるならば全てに説明がつく。ほら、魔法少女って正体バレちゃまずいとかいろいろあるじゃん? その何かしらのいざこざに巻き込まれて『アイツ』の記憶が消去されたとかそんなのだろ。って何か俺やけくそになってないか? 後で直接『アイツ』を問いただしてみよう。 bg "bg\校舎裏.bmp", 1 俺は『アイツ』を校舎裏に呼び出した。 ld c,":r;tatie\魔法.bmp",1 アイツ「どうしたの、斎藤くん?こんなところに呼び出したりなんかして。」 心なしか『アイツ』の顔は、何かの期待を無理矢理抑え込んでいるような複雑な顔に見えた。 斎藤「あのさ、こんなこと聞いて変な奴だって思わないで欲しいんだけどさ…」 アイツ「何かしら?」 斎藤「キミって魔法少女?」 『アイツ』は呆気にとられたような顔をしている。当然だよな、そんな魔法少女だなんて突飛な話があるわけない。 斎藤「ごめん!今の忘れて…!って、おわっっ!!!」 dwave 2,"se\殴る.wav" 『アイツ』が突然俺の胸に飛び込んできた。その拍子に俺は『アイツ』に押し倒されてしまった。 bgm "bgm\帰り道 〜夕日〜\桜.mp3" 斎藤「な、なんだ! 急にどうした…って泣いてる…のか……?」 アイツ「だって!私の事…覚えていてくれた……!」 え、っちょ、おまっ!マジで?!魔法少女なの?! やっべ、正直全く覚えていないんだけど…! 魔法少女「あの日コウ君が死にかけた時、私はコウ君を助けるために魔法少女になったの。魔法少女になった代わりにコウ君を助けられたのは良かったんだけどね…。」 何か泣きながら語り始めたぞ。てか俺死にかけたの?! 魔法少女「私は今までコウ君が私の事を忘れているんだと思っていたの。魔法少女になるんだもの、それくらいのことは覚悟してたんだよ。私はコウ君が元気で生きていてくれるだけで良かったから。でもね、やっぱりコウ君と話せなくて寂しかったんだ。こっちから話しかけてみよう!って何度も思ったんだ。でもできなかった…。だってそうでしょう?コウ君が私の事を赤の他人を見るような目で見たらと思うと…、すごく怖かった……」 コウ君コウ君ってこの子めっちゃ俺の事思ってくれてるよ。でもこっちは全然覚えて無いんだけどな! 斎藤「あ、あのさ…! ん?!」 正直に覚えていないことを言おうとした俺の口は、俺の上に乗っかっているこの女の子の口で塞がれてしまった。 キス?!接吻?!理解不能理解不能! 魔法少女「ん、ん……はあ、いいの何も言わないで」 彼女はもう一度俺の口目がけて顔を近づける。 斎藤「ちょっと待って、キミって…」 魔法少女「キミなんて呼ばないで! せっかくまたこうして一緒になれたのに…。ねえ、ちゃんと名前で呼んで…?」 マジで?!だから俺この子のこと知らないってのに!やばいって! 何かこの子俺の事めっちゃ好きっぽいし、この状況で知らないなんて言えないだろ! でも何かしら言わんともっとまずいかも! こうなったら 当てずっぽうでもいい、今はとにかく名前を呼ばなければ。\ bgmstop この子の名前は… select "A:さ○ら",*a13,"B:な○は",*a14,"C:ま○か",*a15 *a13 斎藤「さ○……ら?」 bgm "bgm\193.mp3" 魔法少女「嬉しい、覚えていてくれたんだね小○くん!」 当たっていたようだ。てか○狼くんって…、さっきまでコウ君じゃなかったか? あといつまで俺の上に乗ってる気だ。いい加減腰が痛くなってきた。 斎藤「なあさ○ら、重いからそろそろどいてくれないか?」 さ○ら「はにゃーん、小○くんに重いって言われた〜」 と言いつつさ○らはちゃんと俺の上からどいてくれた。 俺は何とかこの状況を理解しようと、制服に着いた砂を払いながらゆっくりと立ち上がった。 斎藤「な、なあさ○ら…」 さ○らは俺の言葉を途中で遮った。 さ○ら「ごめん、久々に話せたのに…、私行かなくちゃ!」 さ○はそう言って何やら呪文のような言葉をつぶやき始めた。 するとさ○らの体が光に包まれていく。 (くそ!眩しくて目を開けていられない。何が起こっているんだ?) さ○ら「レ○ース!!」\ 再び目を開けた俺の目に映ったのは、何やら可愛らしい杖のようなものを持ったさ○らの姿だった。 (こいつマジで魔法少女だったのか!もう何が何だかわからねー!!) さ○ら「心配しないで、小○くん」 (心配?何言ってんだこいつは! 頼むから早くどこかいってくれ!!) さ○ら「絶対大丈夫だよ!」 さ○らは満面の笑みでそう言うと、空を飛んでどこか遠くに行ってしまった。 cl a,2 bgmstop これで俺の平和な日常は保たれたのだろうか。そして結局あの子はいったい何だったんだ? もしかしたら俺は白昼夢を見ていたのかもしれない。 さ○らが飛んで行った方角を見つめる。彼女の最後の言葉を思いだす。 『絶対大丈夫だよ!』 goto *title_btnloop *a14 斎藤「な○……は?」 bgm "bgm\193.mp3" 魔法少女「嬉しい、覚えていてくれたんだねフェ○トちゃん!」 当たっていたようだ。てかフェ○トちゃんって…、さっきまでコウ君じゃなかったか? あといつまで俺の上に乗ってる気だ。いい加減腰が痛くなってきた。 斎藤「なあな○は、重いからそろそろどいてくれないか?」 な○は「ごめーん、フェ○トちゃん!」 ようやくな○はは俺の上からどいてくれた。 俺は何とかこの状況を理解しようと、制服に着いた砂を払いながらゆっくりと立ち上がった。 斎藤「な、なあな○は…」 な○はは俺の言葉を途中で遮った。 な○は「ごめん、久々に話せたのに…、私行かなくちゃ!」 な○はそう言って何やら呪文のような言葉をつぶやき始めた。 するとな○はの体が光に包まれていく。 (くそ!眩しくて目を開けていられない。何が起こっているんだ?)\ 再び目を開けた俺の目に映ったのは、何やら可愛らしい杖のようなものを持ったな○はの姿だった。 (こいつマジで魔法少女だったのか!もう何が何だかわからねー!!) な○は「簡単だよ、友達になるのすっごく簡単」 (ん?!いきなり何を言ってるんだこいつは?!) な○は「名前を呼ぶの!たったそれだけ」 (意味解らんし! さっきキスとかしちゃったけど、まだ友達ですらないわけ?!) (いや、でもここでこいつの機嫌損ねると何されるかわかったもんじゃないよな…) 斎藤「な…○……は」 な○は「うん、うんうん!」 斎藤「な○は!」 な○は「うん、フェ○トちゃん!」 な○はは満面の笑みでそう言うと、空を飛んでどこか遠くに行ってしまった。 cl a,2 bgmstop これで俺の平和な日常は保たれたのだろうか。そして結局あの子はいったい何だったんだ? もしかしたら俺は白昼夢を見ていたのかもしれない。 な○はが飛んで行った方角を見つめる。俺は彼女の言葉を思いだす。 斎藤「友達…か」\ bg "bg\通学路(夜).jpg", 1 数ヵ月後 間に合った! な○は「フェ○ト…ちゃん……?」 ?「お前、こいつの仲間か?!」 斎藤「友達だ!」 goto *title_btnloop *a15 斎藤「ま○……か?」 bgm "bgm\193.mp3" 魔法少女「嬉しい、覚えていてくれたんだねほ○ほむ!」 当たっていたようだ。てかほ○ほむって…、さっきまでコウ君じゃなかったか? あといつまで俺の上に乗ってる気だ。いい加減腰が痛くなってきた。 斎藤「なあま○か、重いからそろそろどいてくれないか?」 ま○か「ほ○ほむほ○ほむ!」 と言いつつま○かはちゃんと俺の上からどいてくれた。 俺は何とかこの状況を理解しようと、制服に着いた砂を払いながらゆっくりと立ち上がった。 斎藤「な、なあま○か…」 ま○かは俺の言葉を途中で遮った。 ま○か「ごめん、久々に話せたのに…、私行かなくちゃ!」 ま○かそう言って何やら呪文のような言葉をつぶやき始めた。 するとま○かの体が光に包まれていく。 (くそ!眩しくて目を開けていられない。何が起こっているんだ?) 再び目を開けた俺の目に映ったのは、女神とも思えるような格好をしたま○かの姿だった。 (こいつマジで魔法少女だったのか!もう何が何だかわからねー!!) ま○か「クラスのみんなには内緒だよ☆」 (何言ってんだこいつは! わかったから早くどこかいってくれ!!) ま○かは満面の笑みでそう言うと、空を飛んでどこか遠くに行ってしまった。 cl a,2 bgmstop これで俺の平和な日常は保たれたのだろうか。そして結局あの子はいったい何だったんだ? もしかしたら俺は白昼夢を見ていたのかもしれない。 ま○かが飛んで行った方角を見つめる。彼女の最後の言葉を思いだす。 『クラスのみんなには内緒だよ☆』 俺は今日あった事を明日さっそく吉田に話そうと思った☆ goto *title_btnloop *a12 goto *title_btnloop *a10 そうだ、俺は魔法少女だったんだ! 斎藤「って、んなわけあるかよ!!!」 俺は勢いに任せて机をひっくり返してしまった。 先生「おーい斎藤、どうしたー?」 斎藤「すんませーん、念動力の練習してました」 俺はクラス中からの失笑を浴びながら机をもとに戻そうとする。 dwave 2,"se\st004.wav" すると机の中から棒状のものが出ていることに気付いた。 (ん?こんなもの入れた覚えは無いぞ?) 机を起こし席に着いてから、俺はおそるおそるその棒状のものを引っ張り出してみた。 (??!!マジ…でか……?) 俺は自分の目を疑った、何と机の中にあったのはアニメとかに出てくるようないわゆる魔法のステッキだったのだ。 bgm "bgm\tw013.mp3" これはどういうことだ?俺は本当に魔法少女だったのか? いや、俺は男だから魔法少年か?いやいや呼称なんてとりあえずどうでもいいだろ。とにかく今問題なのは、なぜ俺の机にこんなものがあるのかってことだ。 そしてこの魔法のステッキはおそらく俺のものではないだろう。男の俺がこんなもの持ってるわけがないだろう。いや、そもそもここは高校だぞ?年齢的に女子だって持ってるわけがない。 つまるところ誰かのいたずらだと考えるのが妥当なのだろう。しかし何かが引っ掛かる、俺はこの魔法のステッキを知っている。…ような気がする。 そう、あれは俺がまだ小さかった頃に家で見た気がする。うん間違いない!このステッキは昔自分の家にあったんだ。だけどなぜだ?俺は一人っ子で姉も妹もいないから、こんなものが家にあるわけが…。 しかしなんなんだこの記憶は、俺の家で小さい女の子がステッキを持って遊んでいる。そしてそこには俺もいて一緒に遊んでいるぞ。そこまで考えたとき急に激しい頭痛が俺を襲った。 bgmstop 斎藤「うわぁぁっっっ!!!」 俺は頭を抱えたまま床に倒れこみ、この痛みから逃れようとのたうち回る。\ 先生「おい!斎藤!大丈夫か?!」 先生が斎藤に駆け寄る。 (なんだこの痛みは!痛い!痛すぎる!!誰だ?俺に触るな!) あまりの痛みにだんだんと意識が薄れていく。 誰かに担がれているのを感じながら、俺の意識は完全に無くなった。\ bgm "bgm\takanoniharuka.mp3" bg "bg\保健室.bmp", 2 ん、ここはどこだ? ?「あら、もう目が覚めたのね」 この人がいるってことは…、そうかここは保健室だ。 斎藤「はい、貴子先生」 貴子先生はこの学校の養護教諭だ。まだ20代後半でかなりの美人なのだが、持ち前の気の強さが災いして浮いた話が全くなく、未だに清らかな乙女であるともっぱらの噂だ。 貴子「そう、もう頭痛は治まったの?」 斎藤「まだ少し痛いですね」 そうだ、俺は授業中に頭痛で倒れてしまったんだ。 貴子「こういうことって今までにもあったの?」 斎藤「いえ、初めてです」 貴子「じゃあコレが原因なのかな」 よく見ると貴子先生の手にはあの魔法のステッキが握られていた。 貴子「あなたずっとコレを握りしめていたのよ」 (うおー!そんなのクラスのみんなにも見られたんじゃね?!めっちゃ恥ずかしいぞ!!) 貴子「コレはあなたのものなわけ?」 貴子先生は魔法のステッキを手元で器用にクルクルを回している。 斎藤「今日なぜか俺の机の中に入っていました」 貴子「ふ〜ん、そんなよくわからないものを握りしめながら気絶した…ってわけね」 斎藤「は、はい…」 俺は昔の記憶に関しては黙ってることにした。他人にそのことを話すのは何となくためらわれたからだ。 貴子「ふむ、いいわ今日はもう早退しなさいな」 斎藤「はい、わかりました」 魔法のステッキを受け取り保健室を後にする。 俺は午後の授業は欠席し、昼を少し過ぎたあたりに学校を出た。 bgmstop bg "bg\自室.bmp", 2 その日の夜。 俺は自室のベッドで横になっていた。 今日母親は何か用事があるらしく帰りが遅い。だから今家は俺一人しかいないのでとても静かだ。考え事をするにはうってつけだ、とりあえず今日あった事をまとめてみよう。 今日なぜか俺の机にはこの魔法のステッキが入っていた。ステッキを手に持ってみる。 うん、俺は確かにこのステッキを知っている。そしてこのステッキの持ち主は小さい女の子で俺と交流があったのだ。ここまでは思い出すことができる。 記憶の中のこの少女はいったい誰なんだ?だめだ、あまりにも情報が少なすぎる。 俺はまた昼のような頭痛に襲われることを覚悟し、再び過去の記憶を探ることにした。 この女の子と一緒に遊んでいるのは今いる家じゃないな。つまり10数年前にこの家に引っ越す前の出来事ということだろう。 あれ、そういえば正確にはいつこっちの家に引っ越したんだっけな、よく覚えていないな。 まあいいや、とりあえずは記憶の中の少女についてだ。 bgm "bgm\gareki.mp3" bg black,2 小さい頃の俺と、少女が会話をしている。 斎藤(小)「そのステッキちょっと貸してみろよー」 少女「やめてよ、……ぃちゃん」 女の子は何て言った?……ぃちゃん? 心臓の鼓動が速くなる。頭も痛くなってきた。 くそ!後少しだ、もう少しで思い出せそうなんだ! 斎藤(小)「いいから貸せよー!」 少女「いや!そんなお…ぃちゃん嫌い!!」 お…ぃちゃん? いまや心臓は張り裂けんばかりに激しく鼓動している。汗が全身から噴き出す。 斎藤(小)「うるせー!」 少女「うぇーん、おにいちゃんが〜」 『オニイチャン』? 言葉の意味がわからなかったが、次の瞬間俺は全てを思い出した。 斎藤「そうだ、俺には妹がいたんだ!」 頭の中はしこりが取れたかのように、すっきりしている。 あのステッキは妹のものだ、それが今日俺の机に入っていたということは、妹もあの高校にいるってことか? そしてそのことを俺に伝えようとしたのか、こんな回りくどい方法で。 だとすると誰が俺の妹なんだ?俺の机にステッキを入れることができたのだから、おそらくクラスの誰かだろう。 そうか、今日窓際にいた『アイツ』か!そういえばどことなく妹の面影がある気がする。\ そうとわかれば話は早い、明日『アイツ』に直接話してみよう! そして俺は select "A:明日のために早く寝た",*a16,"B:テンションが上がってステッキを振り回した",*a17 *a16 次の日 bgmstop bg "bg\教室.jpg", 1 俺はいつもより早く登校した。 教室には一番のりだった。 (早く来すぎちまったな…、まあいいか) もうすぐ妹に会えると思うと、期待に胸が膨らんだ。\ しかし一時間目の授業が始まっても妹は来なかった。 (欠席かな?でも先生は欠席者がいるとは言ってなかったな、どういうことだ?) その日結局妹は登校してこなかった。 bg black,2 俺は妹と会えずに、落ちこんだまま家に帰った。 斎藤「ただいまっと」 ん?母さんの靴があるぞ。いつもこの時間はまだ仕事じゃなかったけ? 斎藤「母さ〜ん、いる〜?」 bgm "bgm\黒.mp3" おかしいぞ。居間にいないってことは、俺の部屋か? 全く勝手に入りやがって。 俺は自分の部屋に向かう。 bg "bg\部屋.bmp",2 部屋の扉を開けると母さんがうずくまっていた。 斎藤「母さん!俺の部屋に勝手に入るなっていつも言ってるだろ?」 言いながら俺はふと机の上に目をやる。家を出る前にはあのステッキが置いてあったはずだが…。 斎藤「母さん、机の上にあったステッキみたいなの知らない?」 聞いてから俺は初めて気付いた。母さんが肩を震わせながら泣いていることに。 斎藤「どうしたんだよ!母さん!」 俺は母さんの前にしゃがみこみ様子を見ようとする。母さんはあのステッキを抱きしめていた。 母「この、ステッキ…、どうしたんだい……?」 母さんは鼻をすすりながら、つっかえつっかえそう口にした。 斎藤「そうそのステッキだけどさ、それ妹のじゃないかな?!」 母「お前、なんで妹のことを…?」 斎藤「俺もよくわかんないんだけどさ、俺って妹いるよな?」 母「そうだよ、確かにお前には妹がいた」 斎藤「それでさ、昨日学校で妹がいたんだよ!多分だけど…」 母「そんなわけないでしょ!!お願いだからそんなこと言わないで…」 母さんはまた泣きだしてしまった。 斎藤「何でだよ!妹のこと気にするのは普通だろ!」 母「あんたの妹は!私の娘は…もう死んだのよ……」 bgmstop bgm "bgm\僕が眠るための即興曲.mp3" 頭が真っ白になった。全身が震えだす。立っていられない。 妹がもう死んでいるだって…?そんなバカな…? 母「毎年この時期に帰りが遅くなる日があるでしょう?今年は昨日があの子の命日だったのよ。」 この人は何を言っているんだ?命日だって? 母「普段私はあなたのために、妹なんていなかったように振舞っているけど…、命日だけはあの子のことを思い出そうって…」 母「私もう疲れちゃったわ、もう全部話すわね…」\ 母「あの日ね、あなたたち二人は喧嘩したの。そしてあなたは妹が大切にしていたこのステッキを家の中に隠したの。私はその時お鍋に火をかけたまま、買い物に出てしまったの!それに気付いた私はすぐに家に戻ったわ…、でもその時にはもう…。助かったのはあなただけだった。あの子はその後押入れの中で見つかったわ。あなたは自分がステッキを隠したせいで死んだんだとずっと言っていたわ。私が…私が悪いのに。悔やんでも悔やみきれない…。」 そうだ俺が、俺のせいで妹が… 歯がガチガチ鳴る、寒くもないのに震えが止まらない。 斎藤「うわぁぁぁぁぁーーー!!!」 俺はその場で意識を失い倒れた。\ bgmstop bg "bg\保健室.bmp", 2 隣には妹がいる。なんて居心地のいい世界なのだろうか。 ?「二度目のショックがあまりに強かったのでしょう…」 ?「この子はもう元に戻らないのでしょうか?」 周りで大人たちが何か話し合っている。だけど俺には関係ない、俺には今妹がいるのだから。 goto *title_btnloop *a17 bgmstop テンションが上がったので、思わずステッキを振り回してしまった。 バキンッ! ステッキは壁に当たって真っ二つに折れてしまった。 やっべ、妹のステッキが! dwave 2,"se\st004.wav" でも待てよ?俺はそこまで強く振った覚えはないぞ。いくら古いものだとしても脆すぎないか?しかもよく見ると焼け焦げたあとみたいなのが…。 斎藤「あっっっ!」 俺は完全に全てを思い出した。 こうしちゃいられない、早く学校に行かないと! 斎藤「ハアッハアッッ!」 夜の学校に忍び込み俺は自分の教室の前に立っている。 (俺の勘が正しければこの中に『アイツ』がいるはずだ…) 俺は思い切って扉を開ける。 bg "bg\教室.jpg", 1 (やっぱり…) ld c,":r;tatie\妹.bmp",1 窓際の席に『アイツ』が座っていた。 『アイツ』はこっちをほっとしたような顔で見ている。俺は『アイツ』の席に向かって歩いていく。 bgm "bgm\帰り道 〜夕日〜\桜.mp3" アイツ「やっぱり来てくれたんだね、お兄ちゃん」 『アイツ』は微笑を浮かべそういう。 斎藤「全部…、思い出したからな」 俺は『アイツ』に一歩近づく。 斎藤「お前に…、妹のお前にちゃんと謝りたくてな…」 『アイツ』はおもむろに立ち上がって俺に背を向けた。 アイツ「謝るって何を?」 斎藤「あの日のこと、お前が死んだ…あの日のことをさ…」 『アイツ』は黙って外を見つめている。 俺はまた一歩『アイツ』に近づく。 斎藤「お前が大切にしていたステッキを、俺が隠したりしなければ…。お前は死ななかった…。本当にごめん。今さら何を言っても無駄だっていうことはわかっている。今俺の目の前にいるのは俺が作り出した幻なのかもしれない。これが俺の自己満足だということはわかっている!でも…、それでもお前に謝りたいんだ」 『アイツ』は小さく笑ってこちらを向いた。 アイツ「ううん、謝らなければいけないのはこっちの方」 斎藤「どういうことだ…?」 アイツ「私もね、隠したんだ、お兄ちゃんの大事にしてたおもちゃを押入れに。でもやっぱりお兄ちゃんと仲直りしたくて返そうと思ったの。そしたら火事になって怖くて押入れから出られなくなっちゃったの」 俺は言葉が出なかった。たとえ本当にそうだったとしても、俺がもっとちゃんとしていれば…。 『アイツ』俺に一歩近づく。俺の目の前に来た。少し手を伸ばせば触れられる距離だ。 アイツ「生きているお兄ちゃんが昔のことに囚われているのなんて見てられなくてさ。出てきちゃった、今日は命日だしね…」 俺は『アイツ』、いや妹を思い切り抱きしめた。 斎藤「ごめん!ごめんな…!!」 妹「痛いってお兄ちゃん、だからそんなに謝んないでって!」 妹の声は少し泣いているような声だった。 妹「そんなことより見てよこの姿、すごい美人じゃない?私こんな風になれたのかな?」 斎藤「ああ、なれたさ…!お前は最高の妹だ!」 それからしばらくの間俺と妹は教室で会話を続けていた。 妹「もうそろそろ行かなくちゃ。」 斎藤「そうか…」 妹「そんな顔しないでお兄ちゃん!また命日には会えるよ!多分…」 斎藤「そうだよな、きっと会えるな」 妹「うん!」 そう言った瞬間妹の姿は消えてしまった、初めからそこにはいなかったかのように…。 bg black, 1 後で聞いた話だが、この学校にはある言い伝えがあるらしい。それはある教室の窓際に突然見知らぬ人が現れるというものだ。それが見えた人には、幸福か絶望のどちらかが訪れるという。 俺はたまたま幸福な未来にたどり着けた。しかし、もしかしたら絶望に落ちた俺も別の世界にはいるのかもしれない。 もしまた他の誰かが、窓際の『アイツ』を見つけたら、幸福な未来にたどり着ける事を俺は願っている。 goto *title_btnloop *b (まぁ、授業ももうあと10分くらいしかないし、今考えるのはやめておこう。昼休みになったら他の奴にでも聞いてみようかな) 窓際の『アイツ』が誰なのかは気になるが、先程教師から注意されたのもあって、まじまじと窓の方ばかり見ていたら本当に体育をやる女子を眺める『健全な』男子扱いされかねない。 俺よりも後ろの席で、今頃熟睡してるであろう友人との話のネタにもなるだろうと思い、『アイツ』のことはその時にでも考えることにした。 とりあえず、先程までミミズが這ったような跡が記されていたノートに新しく文字を書いていく作業に徹することにした。 dwave 2,"se\chime1s.wav" そうこうしているうちに、授業が終わってしまった。 授業をまともに聞き始めた途端、あっという間に10分という時間は過ぎていたようである。 まったく、時間というものは天邪鬼だ。\ bg "bg\教室.jpg", 1 bgm "bgm\nv_sr.mp3" なんとか昼の購買という戦場から揚げパン一個とコーヒー牛乳を持って生還した。 あれほど場が荒れているにも関わらず、気付けば女子の方がちゃっかり俺よりもパンの数が多かったりする。 普段は『えー、こういうのこわーい、パンなんて買えなーい☆』なんて言っているくせに、火事場の馬鹿力というか、野生の本能というか…\ ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 吉田「よう!浮かない顔してんなー。購買行ったのに、今日も空振りだったってか?」 突然、後ろからずいぶんと甲高い、陽気な声で話しかけられた。 この「吉田」という奴は、俺がいつもつるんでいる男である。 こいつとはどんなくだらないことも、いつまでも話していられる。俺の友人の中でも良い『バカ』だ。 斉藤「いや、購買一番の人気商品『揚げパン』はゲットできたぞ」 吉田「おお!戦場から揚げパンを引き揚げてきたわけだな!これぞまさに引き揚げパン……」 斉藤「やめとけ、どうせ言い切ったってお前が後悔するだけな気がするから、勝手に落ち込んだお前の相手するのめんどくさいし、そういう何とも言えない冗談はやめてくれ。むしろ頼むからやめてください」 なんだよー!と騒ぐ吉田をよそに、揚げパンを頬張る。 口の中で広がるほのかに甘い香りを軽く楽しんでから、コーヒー牛乳で香りごと一気に流し込む。 この一瞬がたまらなく好きで、俺の毎日のささやかな楽しみでもある。 だからこそ、この揚げパンをゲットできない日は午後からテンションがガタ落ちしてしまうのだが… (おっと、それはいいとして…そうそう、吉田がいるうちに聞いてみないとな) 俺はふと、先程の疑問を晴らすべく、吉田に話しかけた。 斉藤「なぁ、吉田。お前に聞きたいことがあったんだけどさ」 吉田「おう、なんだ!天下一ムードメーカー、吉田様に何でも聞きたまえ。さっきの数学のことだったら残念ながらお断りだが、クラスのことなら何でも聞いてくれ」 斉藤「何でも聞いていいって言った直後に例外作んな」 吉田「すんません的確なツッコミ受けると思ってませんでした、なんでしょうか」 こいつのノリは面白いとは思うが、時折面倒だと思ってしまう。 まあそれがこいつのいいところではあるんだが。 斉藤「まぁクラスのことだったら、お前は熟知してるよな」 吉田「ムードメーカーって自分で言っちゃってるくらいだしな。で、聞きたいことって何よ?もったいぶらずにさっさと聞けよ」 斉藤「ああ、それなんだけどさ。あの窓際に座ってた奴いるじゃん。『アイツ』って…誰だっけ?」 bgmstop dwave 2,"se\st004.wav" それを聞いた途端、吉田の動きが止まってこちらを見た。\ 斉藤「? どうした?」 吉田「あ、ああいや、なんでもねーよ!ハハ!」 いきなり俺の背中を叩いて無駄に明るく笑いだす。 何か、一瞬吉田の様子がおかしかったような気が… select"A:もしかして吉田も『アイツ』について何も知らない?",*b1,"B:吉田は何かを隠している?",*b2 *b1 斉藤「おい、吉田」 呼びかけると吉田がビクリとして、こちらを見る。 斉藤「…もしかしてお前もアイツのこと、分かんないってことか?」 bgm "bgm\nv_sr.mp3" 吉田「……グスン」 斉藤「………お前、『クラスのことなら何でも聞いてくれたまえ』なんて言ってたくせに、分かんねえのかよ!しかもそれを意味深な反応して隠そうとすんな!」 吉田「だ、だってよ。ムードメーカーだなんて自分で持ち上げといて今更『ごめん、分かんない☆』なんてどんな面下げて言えばいいんだよ!?なんだよ、俺ただの残念な奴じゃん!自称・クラスの人気者☆みたいな感じで嫌じゃん!」 斉藤「お前の面目なんてどうだっていいよ!」 まったく、とため息をついた。 こんなやり取りのせいで無駄なエネルギーを使ってしまった。 斉藤「……まぁでも、不思議なもんだよな。お互い揃って窓際に座ってるアイツが誰なのか分かんないなんて」 吉田「確かにな。いくら席替えしたばっかりとはいえ、クラスメートのことが思い出せないなんて何か変な感じだし、しかもそれが俺だけじゃなくて斉藤までとは思ってなかったぜ」 確かに吉田の言う通りである。 いくらクラスにあまり親しくない奴がいるとはいえ、ここまで全く見当がつかないのもおかしな話である。 (そもそも、なんで俺は『アイツ』のことがわからないんだろう…?) select"A:普段いるはずのないものがたまたまいたから?",*b11,"B:『アイツ』に注視するほどの興味はなかったから?",*b12,"C:そもそも、全く見たこともない人だから?",*b13 *b11 斉藤「もしかしたら、俺たちが偶然『アイツ』のことがわからないっていうより、むしろ偶然『アイツ』がいただけなら話は簡単だけどな」 吉田「あ?……えっと、どういうことすか、斉藤さん」 斉藤「ん…まぁ、例えば『アイツ』は隣のクラスの友達だったとか、そんなの予期してないだろ?知ってる人でも、ありえないと思ってたら気づくものも気づかないだけとか、そういう可能性もあるかな、と思って」 吉田「うーん、確かにそうだけど……可能性は低いだろーな。もしそうだとしたら、『アイツ』ってどんな間抜けだよ」 ハハ、と笑って吉田はいつの間にか俺の手から抜き取ったコーヒー牛乳を、あたかも自然に飲んでいた。 斉藤「…ちょ、あー!!てめぇ、絶対許さねぇ!何許可もなく勝手に飲んでんだよ!」 吉田「いや、ちょっとくらいいいじゃん!コーヒー牛乳くらい大目に見ろよ!っていうか許可貰えば普通に飲んでいいのかよ」 斉藤「いや許さん。泣いて懇願しても絶対に飲ませない」 吉田「それじゃ許可の意味がないじゃねぇかー!ケチー!!」 bgmstop dwave 2,"se\chime1s.wav" ギャーギャー騒いでいるうちに、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。 結局『アイツ』が誰なのかなんて、分かりやしなかったな…… 吉田「っと、やべ。次の授業って選択科目だから、俺は教室移動しなきゃな…じゃあな斉藤、また6時間目の国語の時にな!」 斉藤「ああ。またな」 うちの学校は文系理系をごちゃ混ぜにしたクラス編成をしているため、選択する科目によっては教室移動をする必要がある。 俺は理系で、吉田は文系だから、選択科目授業になると俺たちは別々の教室で授業を受けることになる。 ちなみにこの選択科目教科というシステムは、他のクラスからも同じ授業を受ける生徒たちが教室に入ってくるため、席を座りなおさなければならない。 (えーと…次の科目は化学で、教室の席は……っと) bgm "bgm\heaven.mp3" 化学の授業の時に指定されている自分の席を確認する。 俺の席は窓際の――…… (はっ!そういえば、『アイツ』の席って選択科目の時、俺がいつも座ってる席じゃないか!なんで今まで気づかなかったんだ!) もしかすると、この授業中に『アイツ』のことについて調査できるかもしれない。 机の中をこっそり漁ってノートや教科書を見てみれば、名前の一つくらいは分かるはずだ。 そして名前さえ知ることができるなら、今まで思い出せなかった『アイツ』のこともはっきりと思い出せたりする可能性だってある。 思わぬチャンスを掴んだことに喜び、さっそく俺は『アイツ』の席に座って授業の準備をし、そしてこっそりと机の中を覗いてみた。 (どれどれ、『アイツ』の情報は……っと?) 机の中を軽く漁ってから、とんでもない違和感を覚える。 漁れば漁るほど、化学の教科書やら化学の論文みたいなものやらと、とにかく化学関連のものしか出てこないのだ。 机の中から得られる情報は、『アイツ』がまるで化学のプロフェッショナルだということだけのようである。 (一体どれだけ化学関係のものばっかり入れてるんだよ…というか、化学以外の教科のものは何一つ入ってないじゃないか) ld c,":r;tatie\薄井.bmp",1 ???「……ぉ〜、ぁのぉ〜…」 (……ん?さっきから、声が聞こえるような…) かすかに声のする方へふっと顔を上げると、そこには眼鏡をかけた小柄な中年男性が立っていた。\ ld c,":r;tatie\薄井.bmp",1 斉藤「あ、薄井先生。もう教室に来てたんですね」 薄井「は、はい…すみません……」 「薄井先生」というのは、この学校で化学を教えている先生の一人であり、俺の選択する化学の教授を担当する教師だ。 非常に優秀な教師らしく人柄もいいのだが、その反面気が弱くいつもおどおどしていて、その上あまりにも地味なために生徒間ではよく「影が薄いこと=薄井」と、この先生の名前を文字ってからかって言われていたりする。 斉藤「い、いや、謝る必要はないと思いますよ。それで、何か用事でもあったんですか?」 薄井「す、すみません…その、ちょっと斉藤君が座っているこの席から、化学の教科書を出していただけないでしょうか…?」 斉藤「え、この席…からですか?ここ、うちのクラスメートの席ですよ?勝手に出してもいいんですか?」 俺の言葉を聞くなり、薄井先生は非常に申し訳なさそうに、いつも以上におどおどしながらとんでもないことを言い出した。 薄井「あ…あの、その、……すみません、実はその席、今は私が使わせていただいているんです、はい……」 斉藤「…………え?」 突然衝撃の告白を受け、微妙な沈黙を挟む。 その沈黙の間先程までの話を整理し、そして俺は改めて叫んだ。 斉藤「えええぇぇぇえぇぇぇぇ!!!?」\ bgmstop bg "bg\教室.jpg", 1 dwave 2,"se\chime1s.wav" 6時間目の授業が終わり、熟睡から目覚めた吉田がようやく窓際の異変に気づいて、俺に勢いよく話しかけてきた。 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 吉田「あれ?いつの間にか『アイツ』…いなくなってるんじゃね?……もしかして、これってホラーですか!?いやぁぁぁ!!」 斉藤「…あぁ、すっごいホラーだったよ……なんかもう、哀れすぎて俺が悲しくなった」 吉田「へ、お前何言ってんの?っていうか、お前『アイツ』の正体分かったの??」 斉藤「まぁ一応…でもあんまり触れてやらない方がいいと思う……」 吉田「???」 真相を知ってしまったそのあとの話だが、聞くところどうやら薄井先生は職員室の自分の席から追い出されてしまったようである。 まぁ追い出されたといっても、たまたま職員室に運ばなければならなかった荷物が薄井先生の席に置かれていたことがきっかけだという。 影が薄いせいで、その机が新人の教師には気づかれず元々人のいない席だと勘違いされ、その結果授業で席を空けているうちに荷物に机がのっとられていて、戻るに戻れなかったらしい。 あまりに見ていて不憫な気持ちになって、授業が終わった後で俺は先生を職員室に連れて行き、職員室の先生方に事情を説明して席を空けてもらえるように頼んだ。 この事実を知って新人の教師は薄井先生に対して必死に頭を下げて何度も謝っていたが、薄井先生もいたたまれなくなったのか謝り続け、やがて収拾がつかなくなっていた。 一応先生を職員室に連れて行くまでで俺の使命は果たしたはずだと思い、謝り合戦になってからは事態を見届けることなくその場からこっそり逃げ出してきたわけである。 (しかしまぁ…影が薄いっていうのはここまでいくともう不憫で仕方ないものだな。まさか職員室の中だけでなくて生徒の教室まで追いやられる窓際族なんて、聞いたことないぞ…) それから後日、また『アイツ』の席に薄井先生の姿を見ることが時たまにあったが、これ以降からは可哀想な気持ちでいっぱいになりつつも何故か先生の背中を見ては「頑張れ」と念を送る俺がいたのであった。 goto *title_btnloop *b12 斉藤「『アイツ』について、今まで全然意識してなかったのかな」 吉田はそれを聞くなり、「ふむ」と考え込むような仕草をした。 吉田「確かに。今日はたまたま気になっただけで、普段気にしてなかったら分かんないのも当然のことかもなぁ……」 (吉田の言う通りだ。普段意識していないだけでいざ考えてみると、こんなに違和感があるものなんだな…) ぼんやりとしながら、『アイツ』のいる席を眺めた。 よくよく考えれば、普段仲良くしているクラスメートの話題以外はそこまで興味が湧くものでもなかった。 40人前後しかいないクラスメートのことなら大体分かるはずだろうと思っていたが、こうしてたった一人のことですらわからなくなるなんて思ってもいなかったことである。 (まぁ…考えてみたらわざわざ『アイツ』が誰だったか確認する必要も、別に特別あるわけじゃないしな。ちょっとだけ『アイツ』の正体は気になるけど、無理に明かさなくてもいいのかも……) select"A:やっぱり『アイツ』の正体を探る。",*b121,"B:無理に明かすのはやめておこう。",*b122 *b121 bgm "bgm\ibuki.mp3" 斉藤「……でも、これがいいきっかけになったんだ。せっかくだから、『アイツ』のことをもっと探ってみよう」 吉田「おお、それがいいかもしんねぇな!いい暇つぶしにもなりそうだし!」 吉田はノリノリで俺の提案に乗ってきた。 全く、いい意味でも悪い意味でも、ノリの軽い奴である。 吉田「さて。それならまず、手始めにどこから探りを入れていきましょうか、ボス」 斉藤「そのボケなのかなんなのかもよく分からないノリには触れないでおくとして…じゃあまず、順当に座席表でも見てみるか」 吉田「ああんっ!?なにその放置プレイ!っていうか座席表見たらスピード解決ジャン!何も探ることなく終わっちまった!」 吉田が妙にくねくねと身体を動かしているが、放っておくことにして。 俺は教卓の上に置いてある座席表を手に取ってみた。 (どれどれ……『アイツ』の席は…っと、ここか) 教室で机の位置を確認してから、座席表上を指で辿り、そして『アイツ』の名前を見る。 斉藤「…座席表通りにいくと、『真鍋ゆかり』さん、だな」 吉田「あぁ!真鍋さんか!……って、ごめん…正直なこと言っていいか?なんか、しっくりこないんですが…」 俺も正直言って、吉田の意見に同感だった。 だが、突然俺の頭の中を電撃が走ったように、何かを思い出した。 座席表を教卓に置いて、俺は机の中を漁り始めた。 吉田が俺の様子を見て不思議に思ったのか、少しおどおどしながら声をかけてきた。 吉田「あ、あの〜…斉藤さん?どうかしたんすか?」 斉藤「いや、その。俺も名前だけじゃピンとはこなかったんだけど。真鍋って名前、つい最近別の場所で見覚えがあったような気がして……」 そう言いながら、俺の机からようやく目的のものを取り出す。 学級日誌だ。 今日はちょうど俺が日直で、学級日誌を書く当番が回ってきていたのだ。 (確か、この中で見たような…っていうか、このクラスにいる限りは最低でも一回くらい日直が回ってきてるはずだから、それで見た記憶があっただけかもしれないが……) 俺は学級日誌をパラパラとめくりながら、『真鍋』の文字を探す。 そして不思議なことに気付いてしまった。 (……あれ?これって、どういうことだ?) 吉田「なんか、分かったのか?」 斉藤「いや、これを見てほしいんだが……」 そういって俺は、吉田に学級日誌を渡して、その中で日付の新しい数ページ分を見るように言った。 吉田はよくわからないといった表情をしていたが、ページをめくるごとにだんだんとそのおかしな出来事に気付いたのか、表情が曇っていった。 吉田「あの〜…俺の見間違いじゃなければ、真鍋さんはこの一週間は欠席、ということになってるはずなんだけど……」 斉藤「で、今日も俺は、欠席の欄に『真鍋』の名前を書いたわけなんだが」 吉田が俺の言葉を聞くなり、びくびくしながら小さい声で「…これって、ホラーですか?」と聞いてきた。 確かに、数学の授業中見た人影は真鍋さんの席にいたはずだ。 しかし欠席の欄に名前が書かれている、ということは、少なくとも午前中は真鍋さんがいなかったことになる。 このままでは明らかに矛盾したことになってしまう。 吉田が「ホラーじゃないよね?ね、見間違えか何かですよね!?ねぇ斉藤さーん!?」と騒いでいるが、俺はじっと学級日誌を見つめ、それから窓際の真鍋さんの席を見つめた。 (このままじゃ…駄目だよな。ここはやっぱり聞くしかないだろう) そう思って、俺は真鍋さんの席の前まで行った。\ bgmstop 斉藤「あの、真鍋さん?真鍋、ゆかりさん…だよね?ちょっと用事があるんだけど、いいかな」 そう呼ばれて真鍋さんはピクリと反応し、ゆっくりと顔を上げた。 ld c,":r;tatie\真鍋.bmp",1 幼さの残る童顔で、なかなか整った顔をしていた。 真鍋「あ…え、はい。真鍋…ゆかりですけど、どうしましたか?」 真鍋さんはふにゃりと笑って答えたが、声がかすかに震えていることに気付いた。 思えば、真鍋さんと俺は初めて会わせた顔のはずだ。 真鍋さんが緊張をするのは当然のことかもしれない。 そう思うと、なぜか俺まで緊張してしまい、ぎこちなく「おはよう」と挨拶をしてから本題に移った。 斉藤「あの、さ。君…今日は朝からいたわけじゃなかったよね?欠席扱いされてるみたいだから…でも、今ここにいるってことは、欠席じゃなくて遅刻だよね?その……遅刻なら遅刻で、日直に言えば欠席じゃなくてちゃんと遅刻として出席したことになるから、その、ちゃんと言ってくれると嬉しいな〜…なんて……」 なんだかずいぶんとよそよそしい話し方になってしまった。 これは、第一印象としてはずいぶん悪い印象を与えてしまったのではないのだろうか…と、今はそんなことを考えている場合ではなかった。 俺が変な部分で戸惑っていると、真鍋さんはいつの間にか表情を暗くして俯いていた。 斉藤「え、あぁあの…真鍋、さん?あの、別に怒ってるわけじゃなくて、むしろ真鍋さんが今まで遅刻のこと言えなくて全部欠席扱いされてたなら、出席日数の問題もあるし、心配なのもあって……えっと…」 bgm "bgm\kohannomura.mp3" 真鍋「…………なさい…」 斉藤「……え?」 真鍋「……ごめん、なさい…」 謝りながら顔を上げたときには、真鍋さんは目にいっぱいの涙を浮かべていた。 その表情を見て俺は驚き、そしてすっかり動揺してしまった。 女の子の涙を見る機会なんて小学生の頃は腐るほどあったが、高校生になってからは全くといっていいほど見なくなったせいで、すっかり耐性がなくなっていた。\ 斉藤「え、あ、あの……真鍋さん?どうしたの?……その、俺なんか悪いこと言ったかな?」 真鍋「………正直じゃないと、やっぱりだめですよね…」 斉藤「………?」 真鍋さんは涙をぬぐって、俺の顔をまっすぐに見てこう告げた。 真鍋「私、『真鍋なつみ』って言います。『真鍋ゆかり』の、妹です」\ bgmstop bg black,2 bgm "bgm\kashiwagi.mp3" 話を聞くところ、『真鍋ゆかり』は元々病弱な体質で、持病を抱えていた。 小学生、中学生の頃も学校を休みがちであったが、学業は特に優秀であったためにこの高校に入学することができた。 それから抱えている持病は高校に入学するまでは特に発現していなかったが、入学してから不幸にも急に重い症状が出てしまったのだという。 入退院を繰り返し、彼女は病気と闘うものの入院の期間はだんだん長くなっていった。 『真鍋ゆかり』にとって、学校というものは憧れであって、生きがいであった。 どれだけ病気が苦しくても、学校に行きたいという気持ち一つでずっと病気と向き合い、闘っていたのだ。 そんな様子を見て学校の教師や親は、どうしても彼女に学校をやめろとは言うことができなかった。 そこで学校側では授業の出席を考慮せず、課題のプリントなどをやることによって単位を出す、ということで『真鍋ゆかり』の在籍を許可した。 しかし、学校は学業だけではない。 学業は確かに学校のメインだが一側面に過ぎない。 友人との何気ない会話や学校行事、それに部活動だって学校というものの一つだ。 『真鍋ゆかり』は単位を取得でき、そしてこの高校を卒業したところで、彼女にとって得られたものはなきに等しい。 学校につなぎとめられているということ以上のことは望まない彼女の様子を見ていて一番心を痛め、そして何より彼女の気持ちを分かっていたのは、顔のよく似た妹の『真鍋なつみ』であった。 中学生の『真鍋なつみ』は早朝まで自分の中学校で出席をとってから、適当な理由をつけて中学校を抜け出しその間姉の代わりにこっそりと高校に通って、そして病室で姉に学校の出来事を話すことを日課としていた。 それは『真鍋なつみ』としての経験ではなく、『真鍋ゆかり』としての経験であるかのように話していた。 そんな妹の行為はある意味残酷ではあったが、姉を誰よりも想う妹としての行動であることを分かっていた『真鍋ゆかり』は、咎めることなく妹の話を聞いていた。 妹の学業の面などは心配ではあったが、『真鍋ゆかり』は自分がもう長くはないことを悟っていた。 だからせめて今だけは、妹の好意を温かく受け止め、そして何より感謝を忘れない『良い姉』でいようとしていた。 ただ、姉の心配以上に妹には負荷がかかっていた。 ただでさえ高校の勉強は難しいため授業中は苦労をしていたらしいが、何より一番に彼女の負担となっていたのは自分がみんなに対して嘘をついている、ということだった。 『真鍋ゆかり』を演じ、姉の代わりに友人と話をしたりすることが姉のためになることだと考えていたが、友人たちが思う『真鍋ゆかり』は『真鍋ゆかり』そのものではない。 姉自身のことをもっと知ってもらいたいと思えば思うほど、自分が行っていることが間違っていることだと思ってしまう。 しかし姉のことはどうしても喜ばせたかった。 姉の憧れる学校生活を、姉に伝えたかった。 ただその一心だけで、今までのその苦悩をずっと一人で抱えていたのだ。 bgmstop bg "bg\教室.jpg", 2 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" 吉田「……なつみちゃんって、結局今はどうしてるのかな」 斉藤「分からない。でも、ちゃんと今は自分の学校に通ってると思う。『真鍋なつみ』として、自分自身の学校生活を過ごしてるんじゃないかな」 あれからというもの、昼休みには時々真鍋さんの話をすることがあった。 あのとき俺が『真鍋なつみ』に問い質してから真実を知り、事情を吉田に軽く説明して俺たちは結局このことをあえてみんなには秘密にしておくことにした。 無理に言う必要はないと思ったし、『真鍋なつみ』の中で今後どうしたいかを尊重するべきだと考えたために、周りからの制限は極力かけないようにした上で彼女自身の選択を優先させようとした。 その旨を『真鍋なつみ』に言ったところ、彼女はしばらく考えた末に、それ以来高校にはあまり顔を出さなくなった。 吉田「しっかしな……とんでもない話だと思ったけど、こうやって考えてみるとどっちも健気な話だよな。まぁ、あの姉妹はもっと二人で話し合ってればここまで変なことにはならなかっただろうけど」 吉田の言う通りである。 相手のことを考え、尊重しすぎた結果おかしな形で話がこじれてしまったような気もする。\ 斉藤「まぁそうだろうけど。でも、それが真鍋姉妹の持ち味ってことで、いいんじゃないかな」 吉田はそれを聞くと、「すっげ−個性的だな、あの姉妹。ちょっと羨ましいけど」と笑っていた。\ bg black,2 時折俺は、今でも授業中ふと窓際の『真鍋ゆかり』の席を見つめることがある。 今まで必死に妹が積み上げてきたこの学校の中での『真鍋ゆかり』の影は、厳密に言えば『真鍋なつみ』のものであるが、そこには確かに妹がみんなに伝えたい『真鍋ゆかり』としての姿があったのだろう。 あの席に、改めて『真鍋ゆかり』が座ることはない。 やがてあの席には『真鍋ゆかり』も彼女の妹も座らなくなり、いつの間にか机には小さな花が飾られるようになった。 それでも俺は、いつかこの席に『真鍋なつみ』が彼女自身として当たり前のように座ることを期待している。 授業中、ふと窓際に目をやる度にそんな気がした。 goto *title_btnloop *b122 斉藤「まぁ…今まで気にしてなかった奴のことだし、特別今この時に『アイツ』について知らなきゃいけないわけじゃないよな」 吉田「確かにそうだな。今は忘れてても『アイツ』とだってそのうち話す機会なんていくらでもあるだろうしなー。ま、このことは気にせず今日も一日いつも通りに過ごしますか!」 斉藤「おう」 俺たちは結局、『アイツ』の正体については特に気にしないことにした。 と、突然吉田が俺に向き直り、真顔で話しかけてきた。 吉田「そういえば。今日は何の日だか知ってるかね、斉藤君」 斉藤「…また音ゲーの話か?」 吉田「さすが斉藤!俺のことはもう熟知してるんだな!マイブラザーは伊達じゃないな!今日はギターマニアの新作筐体の稼働日なんだよー!もうわくわくしていつも通りに過ごしてなんていられないぜ!!」 斉藤「だからさっきと話が矛盾してるっての。……で、なんだ。今日もいつも通り放課後はゲーセン行こうって誘いか?」 吉田「その通り!今日はお前もバイトない日だろ?学校終わったらソッコーで行こうぜ!な?」 吉田はゲームの話となると目を輝かせて、一層子どものように純粋な奴になる。 やれやれ、と思いつつ俺は吉田の誘いを受けて、放課後はゲームセンターに行く約束をした。 bg "bg\ゲーセン1.jpg", 2 bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" \授業も終わり学校から解放された俺と吉田は足早にゲームセンターへと向かっていた。 俺と吉田は学校の中ではそれほど接点のなかった二人だが、ある日の放課後ゲームセンターの中で偶然会ったことがきっかけで仲良くなった。 俺は格闘ゲーム(通称・格ゲー)をメインに、吉田は音楽シミュレーションゲーム(通称・音ゲー)をメインにやっているプレイヤーだが、お互いの趣味を尊重しあい今ではお互いがお互いの好きなゲームで一緒に遊ぶことも多い。 俺も吉田も、学業ではそこまでパッとした奴ではなかったが、ゲームセンターで知り合った仲間などの中では名の知れたプレイヤーだ。 放課後は暇な時であればよく二人でゲームセンターへ行き、ゲーム三昧の日々を送っている。 新作のゲームにテンションを上げる吉田の話を聞きながら自転車を漕ぎ、やがて学校から少し離れた場所に位置するゲームセンターに到着した。 いつも利用しているこのゲームセンターは、規模はそれほど大きくはないものの店員の対応もゲーム筐体のメンテナンスも他のゲームセンターと比べて非常に良いため、吉田と揃ってお気に入りの店舗だ。 中に入るなり、程よく聞いた空調とゲーム筐体から流れる音の波で身体を揉まれ、心地よくなり気分も高揚していく。 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 吉田「うおお、やっぱりこのちょっとアングラっぽい雰囲気がいいな!もう我慢できねぇ、ちょっと新作やりに行ってくるわ!!」 斉藤「おう。じゃあ俺も少し格ゲーコーナー覗いてからそっちに行くわ!また後でな!」 bgmstop bg black,2 吉田がそう言い残してから音ゲーコーナーへ真っ先に向かっていくのを見届けてから、俺はUFOキャッチャーが立ち並ぶ道を通り抜けてビデオゲームの筐体があるコーナーへ向かった。 先にも挙げた通り小さめのゲームセンターであるため、普段はそこまで人が集まることはないがその反面他のプレイヤーと仲良くなったりすることが多い。 知り合いがいたら挨拶がてら1クレジットを投下し、対戦を申し込む。 これが、ゲームセンターでの俺の日課である。 bg "bg\ゲーセン2.jpg", 2 (今日は誰かいないかな……って、え、これは一体?) bgm "bgm\izuru.mp3" 日課通りさっそく格ゲーコーナーを覗いてみたのだが、そこには明らかにいつもとは違う沢山の人集りを目の当たりにした。 人ごみの真ん中には俺が普段やっている格ゲー『ファイティング・ストリートW』の筐体が確かにそこにあることは確認できるのだが、いったい何が起こっているのかは全く分からなかった。 俺も一端のゲーマーである、これを見過ごすわけにはいかないと思い、人ごみを軽く掻き分けてその中心を見ると、そこにはゲーム画面に『48WIN』の文字が表示されていた。 (よ…48連勝中!?いったい何人のクレジットを吸い取ったんだよ!そもそもそんなに連勝する奴なんて、いったい誰なんだ…?) ちょうど今、その連勝中の相手に挑んでいた俺の知り合い『もなか(ゲームのプレイヤー名)』さんが負けて席を離れる姿が目に入り、すかさず話しかけた。 斉藤「お、お疲れ様です。……あの、今の対戦相手って…」 もなか「あぁ、蒼天くん、お疲れ様ー。いやぁ…まさかの全国ランキング10位の人がいるとは思ってなくて対戦申し込んでみたけど……全く歯が立たないや」 もなかさんはそういうとハハ、と力なく笑ってみせた。 ちなみに補足すると、『蒼天』というのは俺のゲーム中のプレイヤー名だ。 もなかさんは大学生でこの格ゲーを通して知り合った人なのだが、このゲームセンターの中でも1,2番目に上手いプレイヤーである。 (全国ランキング10位って……まさか、『豪流澱(ごうるでん)』って人か?ていうかなんでそんなすごいプレイヤーがこんなところにいるんだ!?) 『豪流澱』という名前は某大型掲示板サイトでも有名であるために、ファイティング・ストリートWのプレイヤーならば一度は目にする名前である。 こんな近くに全国ランキング上位者がいることの感動と純粋な興味から、ちょっとだけ『豪流澱』がどんな人なのか、後ろに回り込んで見てみることにした。 豪流澱はTシャツにスラックスのようなものを穿いているみたいだ。 ぱっと見た感じだと、俺と体格差はあまりないし、そもそも年齢も変わらないように見える。 ここでふと、何か不思議なデジャヴを感じた。 (あれ、この人の背中、どこかで見覚えがあるような……) 改めてじっと見つめ、よくよく考えてみてから、ハッとした。 (……こいつ、よく見たら窓際に座ってた『アイツ』じゃないか!まさか、うちのクラスにファイW(ゲームの略称名)の全国ランキング上位者がいたなんて、なんて偶然なんだ!) 思わぬ繋がりを見つけて呆然としている間に、もなかさんはさりげなく自分が先程まで座っていた対戦相手側の席を俺に譲るようなしぐさを見せた。 斉藤「…ぇ、ええ?なんで俺に席を譲るんすか!?無理っす、もなかさんが勝てなかったなら俺、マッハで負けますよ?」 もなか「いや、もしかすると勝算があるかもしれない。俺が使っているダルソム(ゲーム内のキャラクター名)は、相手が使っていたバインソ(ゲーム内のキャラクター名)とはもともとキャラ同士相性が悪い。だからいくら手段を尽くしても突破されてしまうことも多かった。でも君の持ちキャラであるチェン・リー(ゲーム内のキャラクター名)はキャラ性能も差があるわけじゃないし、むしろ相性はいい方だね」 斉藤「い、いやいや!いくらキャラの相性いいからって、敵う気しませんよ!?だって相手は全国ランキングで――」 もなかさんは俺の言葉に制止をかけた。 そしてにこやかに笑って、こう言った。 もなか「御託を並べたって始まらないさ。君は腕前もあるし、何より機転がきく。絶対勝てとは言ってないんだ、もしかしたらっていう偶然に賭けてみてもいいんじゃないかなって思っただけだよ」 (確かに……こんな機会は滅多にないかもしれない。勝てる自信なんて全くなくても、やってみることに価値があるんだもんな。俺だって、このゲーセンの中では指折り5本のうちには入る腕前だ。ここで逃げ出す理由は……ない!) もなかさんの言葉に強く後押しされ、俺はポケットにつっこんでいた100円玉をゆっくりと筐体の中へ落とす。 そして力強く、下にスタートボタンと書かれた赤いボタンを押した。 周りから、「おぉ…」という歓声ともまた違う感嘆の声が湧きあがった。 画面の上位にはそれまでの積み上げられてきた48人の思いと、先程対戦したもなかさんの熱い思いが込められた1カウントが追加され、『49WIN』の文字が表示されていた。 やがてゲームの俺のチェン・リーと豪流澱のバインソが向き合ってお互いを睨み合っている画が映し出された。 このキャラクターはまさに、俺と豪流澱の分身だ。 画面越しに向き合う俺と豪流澱は、これからクラスメートの域を超えて共に拳で語り合う仲となるのだ。 変な緊張感と、他に言い表せないこの純粋なワクワク感が俺をはやし立てる。 筐体についたレバーを握り、指先をボタンに軽く乗せて全神経を手元に集中させる。 精神を研ぎ澄ませたら画面の表示とともに、熱い魂のぶつかり合いの始まりを告げるゴングが鳴った。 (行くぜ、『豪流澱』。俺の思いを、受け止めろっ!!) bgmstop 〜〜5分後〜〜 健闘むなしくも、俺は負けてしまった。 豪流澱側の画面の表示には『50WIN』の文字が刻まれた。 だが、3ラウンド先取制のゲームで1対3という結果で、全国ランキング上位者から1勝得られたことが何より自分の中では満足のいく結果だった。 俺が一息ついて立ち上がると、傍観していた他のプレイヤーたちが拍手で俺と豪流澱の戦いを称えてくれた。 感無量の思いで、俺は周りに軽く頭を下げた。 すると豪流澱も立ち上がり、俺に近づいてきた。 ld c,":r;tatie\ゴールデン.bmp",1 bgm "bgm\gareki.mp3" 豪流澱「君……同じクラスの生徒…だったよね?こんないいプレイができる相手が、まさかここまで身近にいるとは思ってなかった。いい対戦だった、本当にありがとう」 そういうと爽やかに笑って、俺の前に手を差し出してきた。 俺も負けじと笑って、豪流澱が差し出した手を握って握手した。 斉藤「こっちこそありがとう。ちょっとした隙を突かれて一気に形勢逆転されたりしてさ。自分の未熟な部分がよくわかって、勉強にもなった。でも、なにより本当に楽しかったよ」 お互い拳で語り合い、そして友情が芽生えた瞬間である。 この様子を見て、また周りから拍手が沸き起こった。 吉田「おーい、斉藤。音ゲー新作やってきたぞ……って、あれ?なにこの観衆!え、ていうかこれってすごい大げさな感じで友情芽生えた瞬間!?」 斉藤「おう、吉田!紹介するぜ、こいつは俺の…戦友(とも)だ!」 bg black,2 それからというものの、俺と吉田に加えて窓際の『アイツ』、もとい『豪流澱』は、学校が終わると共にゲームセンターへ行って遊ぶ、ゲーセン仲間となった。 俺と豪流澱が一戦交えた後吉田も豪流澱とすぐ打ち解けて、あれ以来学校でもいつも3人でつるむようになっていった。 俺たちはよく、周りから趣味繋がりのゲーマー集団と呼ばれている。 だが俺たちは俺たち自身のことをゲーマーとは言わない。 俺たちはそう、ゲームを通して共に苦悩し、争い、そして友情を築き上げてきた、『戦友』なのだから。 goto *title_btnloop *b13 bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" 斉藤「もしかして、全く知らない人……だったりして」 吉田「…え?」 俺がぽつりと呟くと、吉田が目を丸くしてこちらをじっと見た。 吉田「…っば、バッカじゃねーの!もー、斉藤さんったら冗談がお上手ー!!」 やたらと俺の肩をバンバンと叩いて吉田は笑い出した。 声だけはでかいが、目があまり笑っていない。 …そういえば吉田は、お化けとかホラーとかが苦手だったな。 斉藤「例えば、昔学校で首を吊った生徒の幽霊とかさ……」 吉田「あー!!あー!!聞こえない、そんな話聞こえないぞー!!!」 吉田の反応見たさに、つい悪乗りしてからかってみた。 こういうときの吉田の方が、普段のちょっとだけウザいあのノリよりも扱いやすくて面白い。 もっとからかってやろうと思い、俺はもっと怖い話がないか考え始めた。 斉藤「あとは、そうだな……実は『アイツ』は別の星から来た宇宙人で、俺たち以外全員をマインドコントロールしていて、頼れるのは他に誰もいないとか…」 吉田「あー!!直接的なホラーじゃなくても、想像してみたらその状況が怖ぇよバカ野郎ー!!」 二人で騒いで楽しんでいたが、ふと俺は冷たい視線を感じて騒ぐのをやめた。 吉田も違和感に気付き、まだ怖がりつつも大人しくなっていった。 (あ、少し騒ぎすぎたかもな。ここはちょっと声のボリュームを落として――) bgmstop bgm "bgm\wenkamui.mp3" そう考えていた、その瞬間である。 クラスメートが次々と立ち上がり、こちらに向かってゆっくりと歩きだしてきた。 吉田「…え、あ、騒いでごめん!もう、斉藤がひどい冗談言いまくるせいでさー……?」 斉藤「……みんな、どうした?」 クラスメートは吉田ではなく、その全員が俺に向かって冷たい視線を送り続けていた。 やがて学級委員長が強い口調で話しかけてきた。 ld r,":r;tatie\委員長.bmp",1 委員長「その話、誰から聞いたんだ…?」 斉藤「……え?俺はただ、冗談で――」 委員長「嘘を吐くな!!本当のことを、知っているんだろう!お前に、『アイツ』の邪魔はさせない!!」 斉藤「………っ!!?」 ヤバい、と直感的に思った時には、すでに遅かった。 突然委員長が襲い掛かってきて、俺の首を絞め始めていた。 明らかに何かがおかしい。 一体何が起こっているのかもわからない。 首を絞められて酸素が頭に回ってこないのか、意識も薄れ始めていた。 (やべ……俺…このまま死ぬのか………?) そう思った時である。 ガタン、という騒音と共に突然俺の首を絞めていた手が離され、身体の力が抜けてがくんとその場にしゃがみこんだ。 吉田「…ぉい、おい、斉藤!大丈夫か!?」 斉藤「げほっ、げほ…っ……あ、あぁ、なんとか………」 見上げてみると、どうやら吉田が委員長をタックルで突き飛ばして助けてくれたようである。 委員長が、俺と吉田がいる所からはずいぶん離れた場所で倒れていた。 吉田「斉藤、歩けるか?この様子じゃ他の奴も委員長と同じように対応してくると思うから、だから…その、よくわかんないけど今は逃げよう!!」 斉藤「…あ、あぁ!」 俺は吉田に支えてもらいながら立ち上がり、必死に身体を動かして他のクラスメートが追いかけてくる前に全力で教室から逃げ出した。 bgmstop bg "bg\体育倉庫.jpg", 2 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 斉藤「……はぁ、はぁっ……はぁっ………」 吉田「……はっ…も、もうここまで来ればひとまずは安心、じゃね?」 俺たちの教室からずいぶん離れた、人気の全くない体育倉庫にまでやってきた。 体育倉庫の戸に、念入りに衝立を立てて外からの勝手な侵入はできないようにしてから、跳び箱などに寄りかかって乱れた息を正す。 吉田「しっかしなぁ……本当に、いったい何が起こってるんだ?斉藤が言った冗談で血相変えたかと思ったら、いきなり首絞めるとか…正気じゃないぜ……」 斉藤「……いや、本当に正気じゃないんだろう」 吉田「…え?」 俺は先程の委員長の剣幕と、あのときの言葉を思い出す。\ (委員長はさっき、俺の冗談に対して『それをどこで聞いたのか』を聞いてきた。…ってことはおそらく、適当な冗談で言ったつもりが実は本当の話だった、っていう通常じゃ考えられないようなとんでもない事態なんだろう。しかもその事態ってのがまた厄介で、冗談の通りならばクラスメートはマインドコントロールされている状態だ。今のみんなの様子から考えれば、おそらくこの状況を打破するために説得しても無駄だろうな……) bgm "bgm\帰り道 〜夕日〜\桜.mp3" 吉田「…なぁ、斉藤……」 斉藤「ん?どうした、吉田?」 吉田は突然俯いて、ぎゅっと拳を握りながら、つぶやくような声で俺に話しかけてきた。 吉田「俺たち…本当に、頼れるやつがいなくなって……二人だけになっちまったんだな…」 吉田の声が震えていた。 俺は黙って吉田を見つめる。 改めて考えれば、この状況は普通の人ならばかなり精神的にくるものだ。 今まで考えもしなかったが、目の前の一人以外は誰も味方がいない世界はこんなにも心細く、不安でたまらないものなのだ。 斉藤「吉田…そうだよな、本当に怖くて仕方ないよな。今まで信じられてきた世界がこんなにも脆く崩れてしまったら、不安だよな」 吉田は黙って俺の話を聞いていた。 このまま気持ちを共有するだけではどうにもならないのも事実だ。 俺たちは今この世界にいる限り、ここから前に進まなければならない。 俺は言葉を続けた。\ 斉藤「俺だってすごく心細いよ。だけど…今、ここにいるのは俺一人じゃない。目の前に、吉田がいてくれるんだ。だから俺は……この状況をどうにかしたい。前に、進みたいんだ」 吉田「斉藤……」 吉田はじっと俺を見ていた。 やがて不安そうな表情から一転して、いつもの吉田の表情に戻った。 吉田「そうだよな…いつまでもここにいたって仕方ないよな。今までの状況にすがってたって、何も変わらないもんな……斉藤、ありがとな。俺、やっぱり不安だけど…お前を信じていれば前に進める気がする。一緒にこの状況を打破しようぜ!」 吉田が俺に勇気づけられたというが、それは俺も同じだ。 この吉田の一言に、俺の不安な気持ちもどれだけ救われていることか。 そして自分の中で、堅く誓った。 (絶対何とかしてみせる。……吉田と、一緒に!)\ bg "bg\体育倉庫.jpg", 2 俺と吉田は体育倉庫の中から武器になりそうなものを片っ端から集め、これからの作戦を立てていた。 bgm "bgm\heaven.mp3" ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 吉田「さて、と…。気持ちは前に向いてきたんだけどよ。これからどうしようか?」 斉藤「…おそらく、他のクラスメートは何も悪いわけじゃない。本当にマインドコントロールされているんだとしたら、クラスメートたちをどうにかしたとしても何も状況は改善されないだろうな」 吉田はそれを聞くなりげんなりしたような顔を見せた。 吉田「うーん……じゃあ、結局どうすればいいんだよー……」 斉藤「まぁ策が全くないわけじゃない。逆に考えてみれば、みんながマインドコントロールされているならマインドコントロールしている奴がいるはずだ。委員長が俺を襲った時、『アイツ』の邪魔はさせないって言ってた。順当に考えていけば、おそらく窓際の『アイツ』がその『アイツ』であって、『アイツ』がみんなを操作している…という仮説が立てられるんじゃないかと思うんだが」 吉田「なるほどな…じゃあとにかく、標的は『アイツ』に絞って、『アイツ』を叩けばどうにかなるかもしれない……ってことだな」 俺の仮説を聞いて吉田はふむ、と腕を組んで考えるようなしぐさをしてからそう言った。 (まぁ、確証がないし仮説の域は超えられないが…でも可能性はあることに違いはない。ここで悩み続けても進まないし、行動してから考えることだって必要だ) 俺はそんなことを考えながら、近くにあったバットを手にして立ち上がった。 斉藤「よし…そうと決まれば、慎重に行きつつ『アイツ』を探そう」 吉田「あ……斉藤、ちょっといいか?」 斉藤「ん?なんだ?」 俺が衝立に手をかけようとした瞬間、吉田が待ったをかけた。 何かと思って振り返ると、吉田が先程の不安そうな顔とは違う、でもいつもの明るい表情とも違うような、真剣な眼差しを持って俺をまっすぐ見つめていた。\ 吉田「あの、さ。よくわかんないままこんな状況に放り出されて、俺、正直気が滅入ってた。だけど斉藤がいてくれて本当に助かったなって思ってる。本当にありがとうな」 斉藤「何今更言ってるんだよ。俺たち、友達だろ?困ったときはお互い様なんだよ。……まぁ、俺も正直この状況には困ってるけど。俺も吉田がいてくれて助かる」 吉田「そうだよな…俺たち、友達なんだよな。……なんか、よくわかんないけど、これからすっげー長い戦いになる気がするんだ。だから、その…今更で気持ち悪いかもしれねーけど。これからも、友達でいてくれな」 吉田の真顔で、俺は本当に嬉しい気持ちになりつつもこっ恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。 この吉田の言葉に何を返そうとしても、照れ臭くて仕方がないため、俺はちょっと笑いながらも「おお、本当に突然で気持ち悪いよお前」と適当に返しておいたが、想いは吉田と全く同じだ。 気持ちを改めてから衝立を取り、俺たちは体育倉庫から出発した。 bgm "bgm\tw013.mp3" bg "bg\rouka.jpg", 2 まずは廊下などの様子を探ることにした。 だが、体育館を後にしてから様子が明らかにおかしいことに気付く。 まるで人の気配がしないのだ。 誰かが俺たちの視界から隠れていて突然襲ってくるんじゃないかと思うと緊張は解けないが、あまりにも静かで襲われるような気配すら感じない。 まるで、もぬけの殻だ。 さっきまで人でにぎわっていたはずの学校が、空っぽの状態になってしまったようである。 そんなことを考えつつ、俺たちはようやく先程まで自分たちがいた教室の前までたどり着いた。 (俺たちが隠れている間に、いったい何が起こったんだ?『アイツ』の姿も見当たらないが…) 一応目的は『アイツ』を探すことだったが、今まで全く見当もつかずに歩いていた。 仕方ないのでまずは自分たちの教室で何か手掛かりを見つけるべく、俺と吉田は注意深く教室の中の様子を外から探りつつ、ゆっくりと教室へと入っていった。 bg "bg\教室.jpg", 2 教室の中に入ってもまるで人の気配はせず、教室はしん、と静まり返っていた。 と、吉田が何かを見つけてあっと声を上げた。 斉藤「ん、どうしたんだ、吉田?」 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 吉田「いや、ほら!見てみろよ、『アイツ』の席…なんか置いてあるぜ?」 吉田が指さした方を見ると、確かに窓際の『アイツ』の机には時々光るものが置いてあるのが目に入った。 ゆっくりと近づいて見てみると、それは小型のラジオくらいの大きさの機械で、レーダーのようなものとスピーカーがついており、時折レーダーが光って反応しているようである。 一体これがなんなのかは分からないが、パッと見る感じではSF映画に出てきそうな機械のように見える。 斉藤「これは…一体?」 ???「やれやれ……どこに行ったのかと思ったら、やっと出てきたか」 ld c,":r;tatie\侵略者.bmp",2 bgm "bgm\テンションアップ\Don't Look Back!!.mp3" 声をかけられ、ハッとして振り返ると、そこには『アイツ』が立っていた。 吉田「お前、ようやく姿を現しやがったな!」 アイツ「ああ、どうやら私を探してこんなところまで来てくれたのか。探す手間が省けて助かったよ」 『アイツ』は不気味に笑ってこちらに近づいてきた。 斉藤「待て、これ以上は近づくな。色々と聞きたいことがある。聞いていいか?」 俺はあえて冷静に対立することにした。 『アイツ』はなおも口元を綻ばせつつも「ああ、いいだろう」と答えた。 俺は一息ついてから、まっすぐ向き合って質問をした。 斉藤「…お前は何者だ?」 アイツ「君が言っていた通りだよ。私は、別の星から来た侵略者だ。この星を侵略しに来たんだ」 吉田「て、テメェ、そんなことさせてたまるか!!」 吉田が侵略者と名乗る『アイツ』に向かって行こうとしたが、俺は吉田の前に腕を出して制止をかけ、質問を続けた。 斉藤「侵略するためにこの学校を拠点としたのか。…さっきまでみんな学校にいたはずだが、みんなはどうしたんだ?」 アイツ「ああ…あの人間たちは君達の言葉に過剰反応しすぎて、こんなたった一つの秘密すら守れないことが分かったんでね。利用価値もないと思ったから、処分してしまったよ」 斉藤「……俺たちは侵略に必要な駒じゃないのか?」 アイツ「まぁ確かに、侵略に使えないこともないがね。君達が手にしているその機械は私の仲間との通信機でね。すでに仲間を要請しているから、もうすぐ仲間たちがこの星に到着し、侵略を始めてくれるだろう。だから人間を利用する必要はないかと思ったんだ」 『アイツ』は終始愉快そうに話していた。 俺は奮え立つ気持ちを抑えつつ、最後の質問をすることにした。 斉藤「俺たちを探していたのは、反抗勢力をなくすためか。反抗勢力になることを分かっててこんなことを話すってことは…」 アイツが、にいっと笑った。 アイツ「君達を、生かしておく気はないからだよ」 そういった瞬間、後ろで爆音が鳴り響いた。 驚いて窓の外を見ると、見たこともない巨大な円盤型の飛行船が何機も空に浮かび、地上にはところどころ炎が立ち上って、まるで一面世界の終わりを描いているようだった。 吉田「………な、なんだよ、これ…!」 アイツ「私たちの侵略が始まっているんだよ。君達に、もうこの運命から逃れる術はない」 吉田は呆然として、その場に崩れてしまった。 俺も言葉を失ってしまった。 だが。 (……ここで、諦めていいのか?こいつらを止められるのは、俺たちしかいないんじゃないのか?今、ここで動けるのは…俺たちしかいないじゃないか!) アイツ「さぁ、君達『人間』の口から聞きたいんだ。…私達に、降服すると!」 手に持っていたバットを、ぐっと握りなおした。 そして俺は、『アイツ』に真っ直ぐ向き直って、こう叫んだ。 斉藤「俺の答えは、こうだ!」 叫ぶと同時に、通信機を地面に叩きつけてバットで叩き潰した。 その反応に吉田と『アイツ』は驚いたようだが、吉田が俺の顔を見て闘志を取り戻して立ち上がった。 やがて『アイツ』はまたニヤリと笑ってこういった。 アイツ「本当に…人間は愚かな生き物だね。……でも、そこが面白い。いいだろう、せいぜい最期の足掻きを、私に見せてくれ!」 俺と吉田は、お互いに目を配って、それから『アイツ』に向き直って二人で叫んだ。 「「俺たちは、諦めたりしない!!!」」 bgmstop bg black,2 …… …………ぃ… ………………ぉーぃ…… どこか遠くで、声が聞こえる。 何か、懐かしいような気がする声だ。 もしかして、ここが三途の川の向こう側なのか? ああ…俺は結局、侵略者に敵わなかったのか―――? bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" bg "bg\教室.jpg", 1 先生「――おい!斉藤!!」 その声と共に、頭にゴン、と激痛が走った。 斉藤「…ぅおあ、はいぃ!!」 先生「おい、斉藤…お前、どんだけ熟睡してんだよ。いくら疲れてたってなぁ、そこまで深い深ーい眠りにつかれるとな、先生も悲しくなっちゃうもんだぞ?」 教室の至る所から笑い声が飛んでくる。 俺はいったい何が起こったのかしばらく分からずぽかんとしていたが、やがて状況を理解する。 (な…なんだ、俺はただ夢を見ていただけだったのか?) はぁ、とため息をついて、黒板の上に掛けられた時計を見る。 今は4時間目で、数学の授業中だった。 一気に現実に戻されて、俺はまだ頭がぼーっとしていた。 (夢にしちゃ、ずいぶんスケールの大きい、おかしな夢だったなぁ……まぁでも完全にSFの世界みたいだったもんな。むしろ夢で妥当ってところか――) そんなことを考えていると、後ろから猛烈な勢いで肩を叩かれた。 驚いて振り返ると、吉田が目を丸くして俺と同じようにぽかんとした表情をしていた。 斉藤「……え?もしかして…吉田も同じ夢を見ていた…のか?」 俺が小声で聞くと、吉田はぶんぶんと首を縦に振って控えめの声で「し、侵略者が…!」と言っていた。 まさか、そんな偶然なんてありえない。 でも吉田の表情はまるで嘘をついているようには思えなかった。 俺と吉田が顔を合わせて、ゆっくりと窓際の『アイツ』の席を見た。 窓際の『アイツ』の席は、空っぽだった。 「「……ぃ、やったぁぁあーーーー!!!!」」 俺と吉田は立ち上がって、喜び合い抱き合った。 事情を全く知らないクラスメートと教師が俺たちの様子を呆然と見ていた。 やがて教師から「お、お前ら何があったのか分からんが、うるさいぞ!」と怒られたが、俺と吉田の気持ちは収まることはなかった。 他の誰もが知らない、俺と吉田だけの秘密の話だが。 これ以来から俺たちは、窓際の『アイツ』からこの学校を…この世界を救った、『ヒーロー』となったのであった。 goto *title_btnloop *b2 斉藤「おい、吉田」 呼びかけると吉田がビクリとして、こちらを見る。 斉藤「もしかして、なんだが…お前、なんか隠してないか?」 吉田「…隠してなんか、ねぇよ。あぁわりぃ、ちょっと俺、トイレ行ってくるから!」 斉藤「あ、ちょっ、吉田!」 cl a,2 引き留めることもできず、吉田は足早に教室を出て行ってしまった。 (……なんだ?吉田の奴、なんか明らかに様子がおかしいぞ) select"A:吉田を追いかける",*b21,"B:吉田の様子について考える",*b22 *b21 bgm "bgm\heaven.mp3" 吉田の奴、やはりいつもと何かが違う気がする。 そう感じた俺は、吉田を追いかけるべきだと思ってとっさに立ち上がり、教室を飛び出した。 その時である。 ???「キャッ!」 斉藤「っうわ、ごめん!」 ちょうど教室に入ろうとした女子と軽くぶつかってしまう。 そこまで激しい接触ではなかったが、急なことで驚いたのか女子はその場にへたりと座り込んでしまった。 斉藤「ごめん、大丈夫?怪我とかしてない?」 女子「………ぁ、はい、大丈夫、だから…」 とっさに俺は手を差し伸べたが、ぶつかった女子は俯いたまま俺の手を借りずにゆっくりと立ち上がった。 そのしぐさを見るなり、言いようのない罪悪感が俺の不注意を責め立て始めた。 幸い、本当に怪我はなさそうだし、彼女も俺の気持ちを察したのか「そこまで気にしてはいないから、大丈夫」と繰り返し言っていた。 その様子を見て、申し訳ない気持ちはあるものの少しだけほっとする。 が、突然「気をつけなさいよ!」とあらぬ方向から荒げた声を浴びせられた。 その声に驚き振り返ると、一部始終を見ていた女子が俺を睨み付けていて、先程ぶつかった女子に対しては「大丈夫?本当に怪我とかない?」なんて聞いている。 なんだか余計にバツが悪くなって、仕方なく「ほんと、ごめんな!」と言ってそそくさと教室から出た。 bg "bg\rouka.jpg", 2 斉藤「はぁっ…はぁっ……ったく、なんだってんだよ」 結局教室からずいぶん離れたところまで走ってきたわけだが、先程の事故をぼんやりと振り返った。 (全く…とんだ災難だよ。ぶつかった奴が怒るならまだ妥当性があるし、怒られても素直に謝るけど…周りの奴は関係ないだろ……) 乱れた息を正すために、近くにあった水飲み場で少し体を落ち着けることにした。 水飲み場の蛇口を軽くひねり、勢いよく流れ出てくる水を手に溜めてそれを口に運んだ。 上気した身体全身に水の冷たさが沁み渡っていくようで、気持ちがいい。 ぼんやりとした脳もその冷たさで覚醒していくようだ。 (…しかしまぁ、ああやって相手が男ってだけで怒る女子はほんと勘弁だな。別に人とぶつかるなんて普通だろうけど、こういうことがあると極力接触を避けたくなる。……だいたい、元はと言えば吉田が突然逃げ出したからであって――) そんなことを考えてからハッとする。 ここにきてようやく今までの目的を思い出す。 (そ、そうだった!俺は吉田を追いかけてここまで来たんだった!吉田を探さないと――) その瞬間である。 bgmstop ???「ワーッ!!!!」 斉藤「っ!!?」 いきなり後ろから驚かされ、口に含んでいた水が気管に入り込みむせ返る。 振り返ると、俺の反応が予想以上だったのか後ろでおどおどしている吉田の姿が目に入った。 bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" ld c,":r;tatie\吉田.bmp",2 斉藤「……おま、バカ野郎、突然いなくなったかと思ったら、何してんだよ!」 吉田「い、いや悪かったって。もう漏れそうでたまんなかったからついトイレへダッシュしちゃってさ。まさか斉藤がこんなところまで追っかけてきてるとは思ってなかったんだよ。しかも驚かしただけでそんな思いっきりむせるとも思ってなかったんだって。ほんと、ごめん!」 吉田がすまなそうに、誠心誠意を込めて俺に頭を下げてきた。 俺が追いかけてきたこともむせたことも、どうやら本当に予想だにしていなかった事態らしい。 驚いた衝撃もあって声を荒げてしまったが、気管の痛みも引いてくる頃には気持ちも落ち着いたので、先程の吉田の言葉には「まぁ謝ってくれたから許すよ」と返しておいた。 とりあえず吉田を探すという目的は果たしたわけで、また一緒に教室へ向かって歩くことにした。 斉藤「それにしても…吉田が急に逃げ出すように出て行ったからびっくりしたよ。そんなに急いだら余計に漏れそうになる気がするけどな」 吉田「いやぁ、そこで漏らさないのが俺クオリティっすよ!ていうか、そこまで急だったか?お前が昼休みに購買へダッシュするのと同じようなもんだと思うけど?」 斉藤「それと今の吉田の反応はまるで違うものだと思うんだが……」 吉田「そうかねぇ?あ、そうだ、購買で思い出したけど。昨日は空振りですっげー落胆してたみたいだけど、今日はちゃんと揚げパンとコーヒー牛乳ゲットできたのか?」 bgmstop その吉田の言葉を聞いて、違和感を覚えて思わず立ち止まる。 吉田は数歩歩いてから俺が立ち止まっていることに気づいて振り返った。 bgm "bgm\deck brush detective.mp3" 吉田「? どうした?なんか変なもん見つけた?」 斉藤「変なもんも何も…お前がその質問するのはおかしくないか?さっき、購買から帰ってくるなり俺に聞いてきたじゃないか」 吉田は俺の言葉を聞いてぽかんとしていたが、ややあってから「ああ!」と声を上げた。 吉田「そういやそうだったな!あー、すまんど忘れしてたわ、ごめんごめん!ハハ!」 そういって吉田は俺の肩をバンバン叩いて、さっさと教室へ戻ることを促す。 教室へ向かう足はまた進めるものの、先程の矛盾は妙に俺の中で引っかかっていた。 (……なんだ?吉田のやつ、急に逃げ出したかと思えば、今度は話を覚えてないって…やっぱり今日の吉田は絶対何かがおかしい気がする。もしかして……) select"A:さっきの吉田と今の吉田は違う人物だったり?",*b211,"B:吉田は何かに操作されているのかもしれない。",*b212 *b211 bgmstop 俺は再び立ち止まった。 また数歩歩いてから吉田は俺が立ち止まっていることに気づき、振り返った。 吉田「? おーい、斉藤さーん?今日は本当にどうしたんだよ」 斉藤「それはこっちのセリフだが…なぁ吉田、俺も変なことを言っていると招致の上で聞くが、正直に答えてくれよ?」 吉田「あ、え?何??」 俺は一息ついてから、真っ直ぐに吉田の目を見て聞いた。 斉藤「お前、さっきの吉田と違う奴…だったりしないか?」 吉田「!」 冷静に考えてみれば俺の質問がどれだけおかしなことを聞いているのかがよくわかる。 だが、目の前で俯く吉田の反応を見れば、その質問も妥当であった。 吉田「……あー、その、俺は絶対秘密を守らなきゃわけじゃないんだけど、ね。その、俺じゃない方が困っちゃうというか、絶対秘密にしてくれって言ってたもんだからさ……」 斉藤「???」 吉田はそう言いながら、ポリポリと頭を掻きつつ「実はさ……」とネタばらしを始めた。 bg "bg\教室.jpg", 2 長い授業を何とか乗り切り、ようやく一日の学校生活が終わった。 帰りのホームルームを担任の教師が軽く済ませると、みんなはこれから思い思いに活動する。 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 ホームルームが終わった途端に吉田がものすごい勢いで後ろから話しかけてくる。 吉田「いやぁ〜、やっと一日終わったな!今日はお前、バイトあったっけ?」 斉藤「いや、バイトはないよ」 吉田「そっか、じゃあ今日は俺と共に、暇人組ってことか?」 俺は少し黙って、吉田を真っ直ぐにじっと見つめた。 吉田は笑顔だったが、俺の急なだんまり具合に少したじろいで、首をかしげた。 吉田「あ、あの〜、斉藤さん?どうしましたか〜?」 (昼休みに聞いた『あの吉田』の話の通りなら、いつか矛盾が生じるはずだ…いっちょカマかけてみるか) そう思い、俺は前触れもなく突拍子もないことを言ってみた。 斉藤「そういえばさ。昼間、吉田が教室から出ていったあのとき、女子とぶつかったんだよ」 突然の話に、吉田はきょとんとした。\ 吉田「お、おう。さっきはごめんな?」 斉藤「いや、それはいいんだけどな。いやー、しっかしびっくりしたな!吉田を追って俺が走ってたら、まさかその女子までついてきて、わざわざ俺に謝るためだけに追いかけてきてたなんて思ってなかったよ。しかもそれがすっげー可愛い子だったから、俺たちドギマギしちゃってさぁ」 吉田「あぁ、そうだなぁ…あんな展開、誰も予想してないよな!俺は最初誰かと思ったけど!」 吉田は少しだけ苦笑いをしながら俺の肩を叩いた。 (やっぱりな、そう答えると思ったよ。今目の前にいる吉田と、俺の知っている吉田は…違う奴だ!) 俺は確信を持ってから、とどめを刺す。 斉藤「おい、吉田…水飲み場にいたのは俺たち二人だけだろ?何を言っているんだ?」 吉田は「え?」と間抜けな声を上げ、目を丸くしてこちらを見た。 斉藤「そんなバレバレな反応したって、吉田にはなりきれないと思うよ?それより、俺は自然な姿で君と向き合って話をしてみたいんだけど、『桜木さん』」 吉田「!」 吉田、もとい『桜木さん』は完全にうろたえていた。 何か言って反抗しようとしたみたいだが、何も答えられないようである。 やがて桜木さんは俯いて、素直に負けを認めたようだ。 bg "bg\教室夕.bmp", 2 斉藤「……で、結局なんでこんなに大々的に変装までして入れ替わってたりしたんですか、君たちは…」 ld r,":r;tatie\桜木.bmp",1 ld l,":r;tatie\吉田.bmp",1 bgm "bgm\帰り道 〜夕日〜\桜.mp3" 吉田「まぁ、それはその、ね?きちんとした理由があるわけでして!まぁ斉藤、落ち着いてくれ!」 斉藤「いや俺は怒る気もないって!」 夕暮れの教室で、今になってようやく俺と吉田と桜木さんは初めて三人できちんと顔を合わせながら話していた。 俺は桜木さんの話を聞いてみたかっただけなのだが、正直言ってこの場は少し気まずくてなかなか本題に入っていけなかった。 吉田はその空気を感じて場を盛り上げるようにと普段以上によくしゃべるが、それが逆に今では邪魔というか、なんというか… 俺もだんだん真実を聞き出すのがわずらわしくなってきて、うやむやにして今日のところは引き下がろうか、と考えていたその時である。 桜木さんが俯きながらも一言つぶやいた。 桜木「あの、その…迷惑かけて、本当にすみませんでした……」 俺も、先程までずっとしゃべりっぱなしだった吉田も、急に黙って桜木さんの方を見た。 桜木さんはもじもじと、ぽつりぽつりとつぶやき始めた。 桜木「その、最初は全然こんなことするつもりはなくって…」 斉藤「えっと、今日に限らず今までも結構入れ替わってたの?」 桜木さんは首を振った。 桜木「今日が…初めてなの。その、それまでは吉田君に話だけはしておいてたんだけど。でも…実際に入れ替わって学校で授業受けてたのはこれが初めてで…」 吉田「これは本当だからな!あんまり責めないでくれよ、な?」 斉藤「いや、だから責める気は毛頭ないよ!…で、単刀直入に聞くけど……なんで吉田と入れ替わろうなんて思ったんだ?」 それを聞くと、どうしても桜木さんはぎゅっと拳を握って俯いたまま黙ってしまう。 その様子を見てまた吉田が何か言おうとするが、俺は吉田の顔を見て黙って念を送った。 沈黙でもいいから、桜木さんの言葉を聞きたいから、今はもう少しだけ待ってくれないか、と。 俺の訴えが通じたのか、吉田は開きかけた口を閉じてじっと桜木さんの方を見た。 やがて沈黙に耐え切れず、桜木さんは腹を括ったのか、ゆっくりと真実を語りだした。 桜木「あの…ね。私、席替えをしても、いっつも窓際の席なの。いつも今と全く同じ席ってわけじゃ、ないんだけどね。でも、窓際って地味でしょう?そんなに注意をひくものじゃないから、それに私自身も地味な子だから……目立たなくて…」 俺と吉田は黙って桜木さんの言葉を聞いていた。 桜木「別に、目立ちたいとか、そんなこと考えてないんだけどね。でも……こんなに窓際ばっかりじゃ、気づかれたくても気づいてもらえないから…だから、吉田君に頼んだの。変なお願いだったけど、吉田君はいいって言ってくれて、だから…その……」 斉藤「……なるほどな。確かに、いっつも窓際じゃ地味って思われたりするもんな。だからムードメーカーの吉田と入れ替わってみたかったってことか」 吉田が俺の後ろで、小声で「今俺のことムードメーカーって認めた!認めたよ斉藤さん!」と言っているが、軽く無視しておいた。 桜木さんはまた俯いてしまったが、おおよそ図星というところだろう。 事情も分かったところで、俺は桜木さんの気持ちも考えつつ、話を整理していくことにした。 斉藤「吉田の席は俺と並んで、教室の真ん中だもんな。窓際とは違って、教室全体も見渡せるし、風景も違うもんな。見える風景が違ってくれば、地味なんかじゃなくって桜木さん自身も明るく振舞えるってこと…だよな……?」 長い間一人でしゃべっていたが、桜木さんは俯いたまま小柄な体を震わせていた。 (…やばい!しゃべりすぎて泣かせてしまったか!?) そう思った途端に焦りが生じて、なんと弁解しようかおろおろと悩んでいたが、やがて桜木さんはギュッと拳を握り直し、そして俺をまっすぐに見つめた。 桜木「明るくなりたいって思うのは、たしかにその通りなんだけど。でも、一番は気付いてほしかったし、近くで話してみたかったの。……斉藤君のこと、ずっと気になってたから…」 顔を真っ赤に染めて、桜木さんはそう言った。 俺はぽかんとした。 斉藤「………え?その…これってもしかして………」 桜木さんは小さくうなずいて、顔を赤くしながらも不安そうな顔つきで、俺を上目使いで見ながら俺にとどめを刺してきた。 桜木「…斉藤君のこと、ずっと前から、……好き、だったの」 その言葉を聞くなり、俺は頭が真っ白になった。 まさか、こんな場所で、こんないきなり目の前の少女に告白させることになろうとは、思ってもいなかった。 桜木さんは俺の驚く様子を見るなり、焦ってまた話し始めた。 桜木「あ…で、でも、こんな言葉気にしなくたっていいよ!と…友達巻き込んで、男の子と入れ替わったりなんてするような、私ってこんな変な人だから、だからその……」 斉藤「いや、気にするよ。気にするに決まってるだろ」 桜木さんの言葉を遮る。 俺は頭を掻いて気恥ずかしい気持ちをゆっくりと落ち着けてから、じっと桜木さんを見た。 斉藤「変だなんて、思わないよ。でも、別に無理する必要はなかったんじゃないかなって思うだけでさ。…桜木さんは、桜木さんのままでいいと思うよ」 桜木「…………」 桜木さんは俺をじっと上目遣いのまま見ていた。 その視線を意識する度、ドキドキしてしまう。 俺はまた視線を外しそうになるが、呼吸を落ち着かせてからじっと見つめなおし、ゆっくりと桜木さんにこう告げた。 斉藤「その、さ。ちょっとやり方は普通じゃないかもしれないけどさ。すっごい健気だなって思うし。……可愛いなって、正直思った」 桜木さんはきょとんとして、俺を見つめていた。 見つめ合って、お互いはにかみ合っていた。 すごく恥ずかしくて、なんだかこの微妙な距離感がもどかしいが。 それでもこの時間が何よりも心地よくて、愛おしかった。 吉田「………あの〜、俺、帰っても大丈夫っすか〜…?」 斉藤「……あ」 すっかり吉田の存在を忘れていた。 非常にふわふわした気持ちでいたが吉田の一言によって急に現実に引き戻されたような気持ちになって、吉田には申し訳ないがちょっとだけ、「空気読んで黙って出て言ってくれてもよかったのに…」なんて思ったのはここだけの話である。 bgmstop bg black,2 それから俺たちは、端から見たらちょっと不思議な関係になった。 まぁ俺と桜田さんがくっついたきっかけがきっかけなので、それは致し方ないが。 俺と桜田さんと吉田は、これ以来何かと行動を共にするようになった。 俺にとっては、この三人は最高の関係だ。 goto *title_btnloop *b212 bgmstop bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" 俺は再び立ち止まった。 また数歩歩いてから吉田は俺が立ち止まっていることに気づき、振り返った。 吉田「? おーい、斉藤さーん?今日は本当にどうしたんだよ」 斉藤「それはこっちのセリフだが…なぁ吉田、俺も変なことを言っていると招致の上で聞くが、正直に答えてくれよ?」 吉田「あ、え?何??」 俺は一息ついてから、真っ直ぐに吉田の目を見て聞いた。 斉藤「お前……最近誰かから変なことされたりとかしなかったか?」 吉田「………え?」 そう聞くと吉田は、そっと自分の下半身の大事な部分を心配するような仕草をした。 斉藤「……い、いやいや!何も、そういう『変なこと』を心配してるわけじゃなくてだな」 吉田「え、あ、違うのか。てっきり俺のピュアピュアハートが何者かによって奪われたのかと……」 斉藤「そんな個人情報いらん!」 まさか下ネタの話になるとは思っておらず、俺は恥ずかしさのあまりすかさずツッコミを入れた。 しかし吉田は、なおも真剣な表情で俺と向き合った。 吉田「まぁ、それは冗談だとして……確かに俺自身もなんか変な感じがするんだよな。いや、何が変なのかって言うのは俺もよくわかんないんだけど…なんか、思い出そうとしても全然記憶がない時があるというか、とにかくよく分からないんだ」 俺は「ふむ」、と聞きながら考え込んだ。 (……うーん、どういうことだ?記憶が途切れるっていうことなのか?記憶がないなら、操作されてるも何もわからないよな…これから一体どう探っていけばいいのか――) bgmstop そう思っていた、その瞬間である。 突然、ゴンという鈍い音とともに、後頭部に激痛が走った。 後ろから何かで殴られたようだ。 あまりの激痛に声もあげられず、視界がゆがんでそのまま俺はその場に倒れ込んだ。 bg black,2 … …… ………… (……ん、こ、ここは…?)\ bg "bg\理科室.jpg", 2 bgm "bgm\industry.mp3" ハッと目が覚め、ゆっくりと体を起こした。 まだ頭がガンガン痛む。 頭を押さえつつ周りを見渡すと暗くてあまりよく見えないが大きな棚が立ち並んでおり、薬品のような臭いも漂っている。 (ここは…理科室か?いや、どちらかと言えばこの狭さは、理科室の隣にある理科準備室か) ld c,":r;tatie\ジェシー.bmp",2 ???「気が付いた?」 突然電気がつき、声をかけられ驚いて振り向く。 するとそこには見覚えのない、外ハネが激しい金髪で、スクール水着の上に白衣を羽織った小柄な少女が立っていた。 (あれ…?スク水+白衣の金髪の少女って、どこかで聞いたことのあるような…) 考えているうちに、ハッとした。 斉藤「ま、まさか君は、『理科準備室のジェシーさん』じゃないか!?」 ジェシー「おお!ご名答なのれす!さすが私は有名なのれすね」 ジェシーさんについては、理科準備室に潜んで実験台を捕まえては謎の実験をしている、これまた謎の少女だと噂に聞いたことがある。 ただしそれ以外の情報は全く無く、幽霊だとの噂もあれば、ただの美少女との噂もある。 俺も詳しくは知らないが、説明すると長くなるので詳しくは『げんしけんっ!』ブログを参照のこと…ということだそうだ。 (…って、いったい誰に向けて何を宣伝をしてるんだ俺は。今はそれどころじゃない!) 斉藤「さっき俺を気絶させたのは、君だったのか?」 ジェシーさんはきょとんとしながら首をかしげていた。 ジェシー「気絶させる気は全くなかったのれすが…とりあえず動きを鈍らせたかっただけなのれす」 斉藤「い、いやいや!それって結局意図的に殴ったんだよね!?」 色々とどこからつっこんでいいのか分からない。 というか分からないことが多すぎて何を聞いていいものかも分からない状況だった。 斉藤「なんで俺を殴って、しかもこんなところまで連れてきたんだ?俺はただ、吉田の不自然さに気付いただけで…」 自分で話しかけておいて、またハッと気付く。 斉藤「……もしかして、吉田の記憶が抜けてるのも、ジェシーさんのせいなのか!?」 ジェシー「おお!!物わかりが良すぎてまさに制作者側のご都合主義みたいな推理力れすね!斉藤しゃんには感心するのれす」 ジェシーさんの言葉はよく理解できない点がいくつかあるが、とりあえず分かったのは吉田の異常はジェシーさんの実験によるものだということだ。 斉藤「でも、それならなんで俺をここに連れてくる理由があったんだ?」 ジェシー「そりゃもちろん、実験に協力してもらうためなのれす♪友達も受けてる実験なら、斉藤しゃんも受けてくれるかなぁと思って――」 それを聞いた途端に入口までダッシュしたはずが、ジェシーさんの方が一足早かった。 いつの間にか学ランの裾をがっちり掴まれており、思い余ったエネルギーで自ら足をもつれさせてしまい、俺はその場で横転した。 ――このままでは、狩られる!―― 脳裏にその言葉がよぎり、必死に抵抗した。 斉藤「嫌だ、断固断る!!そんなことだろうと思ったけど、俺は絶対に嫌だからな!!」 ジェシー「素直に諦めてくだしゃいよ、斉藤しゃん!あちきの実験台になる、これは運命なのれすから!」 斉藤「なにが運命だよ!運命だろうがなんだろうが、こんな不毛な展開は認めない!第一俺は、そもそも窓際に座ってる『アイツ』が誰なのか探りたかっただけで――」 ジェシーさんはその言葉を聞くなり、またきょとんとして首をかしげながら俺にこう言った。 ジェシー「え?窓際に座ってたって…それってもしかして、あちきのことれすか?」 斉藤「…………え?い、いやだって、授業中見えたのは明らかに黒髪の人だったんだけど…」 ジェシー「あぁ、ためしに自分で薬を飲んでみたのれすけど…どうやら髪の色が変わるっていう不思議な薬効を持った薬だったみたいれす!あ、あとちなみに斉藤しゃんとさっきぶつかった女の子もあちきなのれすよ?全然気づいてなかったみたいで、面白かったれすね☆」 ――終わった。 その言葉を聞いた瞬間、すべてを悟った。 俺が今まで回収してきたフラグというフラグは、すべてジェシーさんの実験台となるための布石だったのか…――― ジェシー「それじゃあまずは、このお薬からいってくだしゃい♪」 斉藤「アッーーーーー!!!!!!」 bgmstop bg black,2 あの後散々いろんな種類の薬を飲まされて、その結果俺はSFの世界でしかありえないような能力を得た。 某海賊漫画のように身体がゴムのように伸びたり、テク○クマヤ○ン〜と呪文を唱えると動物などに変身できるようになった。 まぁ確かに使い方によってはいい能力もあるのだが、例えば全身の毛という毛が枝毛になるという、正直言って何の役に立つのか全く分からない能力まで備えてしまった。 そして今でも俺は、今度は改造されたこの身体を元に戻してもらうためにと、結局ジェシーさんの下へ通って実験台になり続ける俺がいたのであった。 goto *title_btnloop *b22 bgmstop (なんだったんだろう…吉田の奴、まるで逃げるように行ってしまったが…) 教室に取り残された俺は、一人で吉田の『不自然さ』について考えることにした。 (さっきの反応を見る限り、おそらく吉田は『アイツ』関係で何かあったように思えるが……) select"A:何か、俺には知られちゃまずいことを隠しているのか。",*b221,"B:吉田が俺に隠し事をするはずがない。絶対に。",*b222 *b221 bgm "bgm\アゲハ MEMO.mp3" (多分…俺には『アイツ』のこと、知られたくないのかな。『アイツ』については知ってるけど、秘密にしなきゃいけない…というところだろうか?) 一人で悶々と考え込むうちに、着々と昼休みが終わりに近づいていた。 『アイツ』が誰なのか明かそうと思っていたのに、予想に反して複雑な話になってきてしまった。 (うーん……このままだと『アイツ』のことがますます謎になるばかりで、しかし吉田とは何か気まずい関係になってしまいそうだ。それならもう、いっそ俺一人で直接『アイツ』に聞いてみるしかないか…) ここまで徹底的に正体を隠されると、逆に明かしてしまいたくなるのが人間の性である。 本当に俺に知られたくないことなら、俺が『アイツ』のことについて知ることで少し罪悪感を覚えるが。 だが、罪悪感以上に『アイツ』のことが知りたいという単純な好奇心があった。 (吉田には悪いが、『アイツ』について吉田とは今後一切話さないとして、『アイツ』の正体だけは知っておこう) 俺は自分の席から立ち上がり、窓際の『アイツ』の席へ向かって歩き出した。 (……そういえば、こういうときってなんて聞いたらいいんだろうな。『お名前なんでしたっけ?』とかじゃ、逆に失礼になるような気がするが…) そんなことを考えつつ、あっという間に『アイツ』の席の前へとたどり着いた。 『アイツ』は昼休み中もずっと突っ伏していたようである。 (もしかして、寝てる?具合とか悪かったりするのかな。そうだとしたら、起こすのはなんだか申し訳ないな…) 『アイツ』に話しかけるのは少し躊躇いがあったが、それでも俺の好奇心が俺を後押しした。 腹を据えて、『アイツ』の肩に軽く手を置いて、そして話しかけた。 斉藤「なぁ。寝てるところ悪いな、ちょっといいかな?」 話しかけると、『アイツ』は顔を上げて、俺を見た…気がした。 正確には、前髪が長すぎて目がよく見えなかったために、目線が合っているかどうかは分からなかったが。 肌は白く、後ろ髪の長さは男子とも女子とも思えるような、少し長髪気味である。 なるほど、後ろから見ただけでは性別も区別つかないものである。 そんなことを一人納得しながら、俺は話しかけ続けた。 斉藤「あのさ、ちょっと聞きたいことがあって話しかけたんだけど――」 アイツ「ありがとう」 なぜか、背筋がぞくりとした。 その場から一歩引こうとして、でも足が全く動く気配がなかった。 『アイツ』はじっと俺を目でとらえ、そして不気味にニィッと笑ってこう言った。 アイツ「やっと、変わってくれる気になったんだね」 そう言われた直後、俺の視界がゆがんだ。 意識の糸がふっと切れたように、それから全身の力がすっと抜けていく――………\ bg "bg\教室.jpg", 2 ハッと気づくと、俺は授業を受けていた。 時計を見上げると、4時間目の授業中のようだ。 教師が数字の羅列を書き連ねている。 (さっきまでのは…夢、か?) 不思議な夢だったな、と思っていたが、ふとここで違和感に気付いた。 (あれ……俺、なんで窓際の席にいるんだ?) 俺は確かに、先週の席替えによって吉田と並んで教室の真ん中の方の席にいたはずだ。 なのに何故か、今は窓際の席で普通に授業を受けている。 (俺、いつの間に席を間違えたんだろ――) その時である。 先生「おい、斉藤!聞いているのか?」 斉藤「ぅおあ、はい!」 突然名指しで呼ばれて驚き、反応を返した。 しかし反応したはずが、教師は一向に俺の方を向いてくれない。 おかしい。 確かに俺は今、教師に向かって答えたはずだ。 もう一度答えようとするが、突然教室の真ん中から声が上がった。 ???「…あ、はい、すみません。話聞いてなかったっす」 先生「おい斉藤〜、しっかりしろよ〜。いくら昼前だからってぼーっとすんなよ〜?」 教室中から、笑い声が響く。 全身から汗が噴き出るような感覚。 まったく理解できない事態に、身体の震えが止まらない。 (いったい、何が起こっているんだ…!?斉藤は教室の真ん中の『アイツ』じゃない!斉藤は、俺だ!!) dwave 2,"se\chime1s.wav" 授業の終わりを告げるチャイムがなった。 俺は呆然としたまま、その場に座っているしかなかった。 ld c,":r;tatie\アイツ.bmp",2 ???「やぁ」 突然声をかけられ振り返ると、そこには『俺』がいた。 斉藤「な、なんで……?」 ???「さっきはありがとう、やっと席を替わってくれたんだね」 目の前の『俺』は、にっこりと俺に向かって微笑んだ。 俺はこの事態に恐怖し、絶句していた。 ???「どうやら、この状況を掴めていないようなそぶりだね。この学校の七不思議について、知っているかい?僕は…いや、今は君だったね。君はその七不思議の一つになれたんだよ。それだけの話さ、そんなに怖がる必要もない」 斉藤「……ふ、ふざけるな!なにが『それだけの話』だ!こんな状況、そんな一言で納得できるかよ!」 ???「まぁ、そう反応して当然だろうね。このクラスにある七不思議はね、教室にいるはずのないクラスメートが突然現れて、それに気づいてしまった者は一生不幸になる、というものらしい。でも実際は、そのクラスメートと発見者の中身がいつの間にか入れ替わっちゃうっていうものなんだよ。今回はたまたま君が僕に『気付いて』しまった。だからセオリー通り、僕と君が入れ替わった」 bgmstop 斉藤「…そんな噂、聞いたこと、ないぞ……」 ???「どうやら、君は知らなかったみたいだけど。でも吉田って男は僕に気付いていながら、まったく接触はしないよう僕を避けていた。おおよそ吉田は七不思議を知っていたんだろうね。だから何も知らない君がいてくれて、都合がよかったんだろう」 俺はまた絶句した。 つまりそれは、俺は吉田に売られたということだ。 わけが分からず、また汗が噴き出て、身体が震え出して止まらなくなった。 ???「ああ、安心してくれ。ずっと君が窓際の『アイツ』となるわけじゃない。きっとまた君みたいに七不思議を知らない、君を見つけて好奇心で話しかけてくる『馬鹿』はいるはずだよ」 そう言った後、目の前の『俺』は、入れ替わる直前に見せたあの不気味な笑顔を俺に向けた。 ???「心配しなくても大丈夫だよ。今日からは君の代わりに、僕が『斉藤』を演じてあげるから――」 goto *title_btnloop *b222 bgmstop (いや、俺はいったい何を考えているんだ?吉田は俺にとって大事な親友だ。吉田を、まさか隠し事してるなんて疑うとは…俺は正気じゃなかったのかもしれない) 吉田を疑ってしまったことに激しい罪悪感を覚え、俺は反省する。 (……そうだ、謝らなきゃ。『アイツ』のことばっかり考えてたけど、吉田のことはちっとも考えてなかった……!) そう思った瞬間から、俺は無意識に体を動かし、何も躊躇うことなく教室から飛び出した。 bg "bg\rouka.jpg", 2 結局教室からずいぶん離れたところまで走ってきた。 (吉田…くそっ、吉田はどこにいるんだ……?) 走っている間も吉田を探していたが、見つからなかった。 とりあえず乱れた息を正すために、近くにあった水飲み場で少し体を落ち着けることにした。 水飲み場の蛇口を軽くひねり、勢いよく流れ出てくる水を手に溜めてそれを口に運んだ。 上気した身体全身に水の冷たさが沁み渡っていくようで、気持ちがいい。 ぼんやりとした脳もその冷たさで覚醒していくようだ。 (俺は今までも、吉田に対してひどいことをしてきたのかもしれないな…吉田にとっては触れてほしくない領域に入っていってしまった。くそ、俺は本当に駄目な奴だ――) その瞬間である。 ???「ワーッ!!!!」 斉藤「っ!!?」 いきなり後ろから驚かされ、口に含んでいた水が気管に入り込みむせ返る。 振り返ると、俺の反応が予想以上だったのか後ろでおどおどしている吉田の姿が目に入った。 ld c,":r;tatie\吉田.bmp",1 斉藤「……おま、バカ野郎、突然いなくなったかと思ったら、何してんだよ!」 bgm "bgm\帰り道 〜夕日〜\桜.mp3" 吉田「い、いや悪かったって。もう漏れそうでたまんなかったからついトイレへダッシュしちゃってさ。まさか斉藤がこんなところまで追っかけてきてるとは思ってなかったんだよ。しかも驚かしただけでそんな思いっきりむせるとも思ってなかったんだって。ほんと、ごめん!」 吉田がすまなそうに、誠心誠意を込めて俺に頭を下げてきた。 俺が追いかけてきたこともむせたことも、どうやら本当に予想だにしていなかった事態らしい。 驚いたことと実際に吉田を前にするとなぜか恥ずかしいと思ってしまうことから心臓はドキドキしたままだった。 吉田「お、おい…?斉藤、本当に大丈夫か?」 俺を心配して、吉田は背中をさすってきた。 俺の背中に触れた吉田の手が、温かい。 心臓が、余計に鼓動を早めて一向に落ち着かなかった。 斉藤「よ、吉田……」 吉田「ん、おう?どうした、まだ辛いか?いや、ほんとさっきはごめんな、斉藤……」 しょぼんとした吉田の姿を見て、俺は息が詰まる思いだった。 そして勢いで、吉田に向かって俺は思っていたことをすべて吐き出すことにした。 斉藤「違う…違うんだ、吉田!」 吉田「へ?え、どうした、斉藤――」 斉藤「俺、吉田にひどいことしたんだって思ったんだ。吉田が触れてほしくなかった領域に土足で踏み込んで、勝手に許してもらえるなんて思い込んで…」 吉田「お前…あの、何言ってんだ??」 吉田はきょとんとしていた。 斉藤「俺、『アイツ』のことばっかり考えること優先して、吉田のこと考えるの、忘れてたんだ。本当に大事なことが見えなくなってたみたいで……本当に、ごめん!」 吉田「!」 誠心誠意込めて、俺は吉田に負けずに頭を下げた。 決して許されなかったとしても、俺は本気でこの言葉に気持ちを込めたつもりだ。 せめて、この気持ちだけは伝われば…と思っていた。 しばらくの間下げていた頭を、ゆっくりと上げてみた。 すると吉田は、温かい眼差しでまっすぐ俺を見つめていた。 吉田「斉藤……お前、俺のことをそんなに想ってくれてたんだな。驚いたぜ」 斉藤「吉田……まさか、俺のこと許してくれるのか…?」 吉田「当たり前だろ!許すも何も、俺は怒ってなんかねぇよ。お前がさ、『アイツ』についてすっごい関心示してて、正直心がズキズキしてた。いつも俺のことは適当に扱うけど、『アイツ』のことになるとそんなに真剣になってる斉藤のこと見てると、俺のことはどうでもいいのかなって、ちょっと思ってた」 俺は吉田の言葉に胸が熱くなりながら、黙って聞いていた。 吉田「でも、さ。こうやって斉藤が追っかけてきてくれて、しかもこんなに真剣に俺と向き合ってくれて、思ってること正直に伝えてくれて…本気で、嬉しかった」 斉藤「吉田……」 俺と吉田は、お互いじっと見つめ合っていた。 何か言いたいようで、だけど少し気恥ずかしさが邪魔をする。 沈黙が漂う。 やがて俺は深呼吸をして、吉田の顔を改めてじっと見て、ずっと抱えていた気持ちを吐き出した。 斉藤「吉田……俺、吉田のことを傷つけたと思ってから、ずっと苦しかった。でもこうやって吉田の気持ち聞いて、すごく安心したんだ。……俺、吉田のことが…好き、なのかもしれない」 吉田「斉藤……俺も、同じ気持ちだよ!俺…斉藤のこと、大好きだ」 俺と吉田はすべてを吐き出して、気持ちがすっとした。 ふっと緊張の糸が切れたように、お互いひときしり笑い合った。 それから俺と吉田は、手をつないで昼休みの間に一緒に学校を抜け出した。 goto *title_btnloop *c 正直このまま考えていても思い出せる気がしない。 しかし一度気になってしまった以上忘れることも出来なさそうだ。 この苦痛な時間に『アイツ』の正体を悶々と考え続けるなんてコンボは勘弁願いたい。 ここは行動あるのみである。 断じて暇つぶしのネタを見つけてノリノリ、というワケではない。\ bgm "bgm\推理\deck brush detective.mp3" この状態から今出来ることといえば… select "A:目を凝らして観察する",*c01,"B:どうにかして近づく",*c02,"C:ちょっかいをかけてみる",*c03 *c01 当然、まずは見ることだろう。何かしらの手がかりがあるかも知れない。 冷静になって考えてみれば、制服で男か女かの判断くらいはつくはずである。 俺は目を凝らして観察した。 (後ろの席のやつに隠れてよく見えないけど、あれは…) select "A:男だな",*c04,"B:女だな",*c05,"C:わからないな…",*c06 *c04 男だな。しかもかなりの短髪だ。 うちのクラスにこんな短髪っていただろうか…? いまだに該当の人物が思い当たらないことに不思議な気分を覚えつつ、俺はさらに考えた。 (短髪……ということは……) select "A:運動部だな",*c07,"B:寺の息子だな",*c08,"C:いじめ…とか?",*c09 *c07 bgmstop 運動部だな。多分野球部じゃないだろうか。 (…野球部……) (思い出した!阿部だ!) そうだ、何で忘れてたんだろう!野球部の阿部だよ。 やべ、普通にド忘れしてただけかよ… dwave 2,"se\chime1s.wav" ついに思い出したそのとき、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。 俺は強制的に現実へ引き戻された。 (やべっ!購買ダッシュ出遅れた!) 阿部「よお、斉藤。」 ld c,":r;tatie\阿部.bmp",2 急いで財布を確認していると阿部に話しかけられた。 阿部とは知り合い程度の間柄だったので、少し珍しいことだ。 阿部「ちょっと頼みがあるんだけどさ、今日の放課後空いてる?」 用件を言わずに予定が空いてるかどうかだけ聞くのは法律で禁止したほうがいい。 まあこういうときの返し方にもお決まりのパターンがあるのだが。 斉藤「え?なんで?」 阿部「実は今日の練習試合に出るメンバーが歩道橋から落ちて怪我しちゃってさ、ウチって弱小で人数ギリだからさ…」 斉藤「助っ人で入ってくれって事?まあいいけど、何で俺に?」 俺は運動神経はいいほうだとは思うが、阿部との接点を考えると少し引っかかった。 しかし内心は「歩道橋から落ちるという状況ってなんだよ!?」と突っ込みたい気持ちが脳内メーカーばりに充満していたのでそれどころではなかったのだが。 阿部「他に頼めるやつもいなくてさあ。やってくれるんだよな?じゃあ頼むわ。」 そういうと阿部はさっさといなくなってしまった。 押し付けられた感がハンパないが、特に断る理由もないのでしょうがないかと思うしかない。 まあ体を動かすのは嫌いじゃないしな。 〜放課後〜 bg "bg\グラウンド.jpg", 1 放課後になった。俺は野球部の助っ人としてメンバーに加わった。 やるからには手を抜かないのが信条だ。絶対に勝つ、かどうかはまあいいとしても、ヒットの一本くらいは打たないとな。 阿部「相手は隣の凛陣高校だ。強豪の癖に毎年ウチに試合申し込んでくるんだぜ?いつもボロボロに負けるけど顧問の石井はいい経験だからとか言って受けちゃうんだよな…」 斉藤「ふーん。」 まあ勝ちグセってのはあるからな。 ウチは噛ませ犬ってことか。逆にウチの野球部は負けグセがついちゃってるんだろう。 もちろん地力の差はあるだろうが、ここは一つギャフンと言わせられたら面白いだろうな… 「「よろしくお願いします!」」 bgm "bgm\テンションアップ\Don't Look Back!!.mp3" そんな間に試合開始だ。 俺は七番打者で外野。ウチの攻撃は裏。 〜1回〜 審判「ストライク!バッターアウッ!」 阿部「よっしゃー!三者凡退!」 斉藤「ナイスピッチーン!」 ウチのピッチャーはサイドスローの2年生。今年からグングン調子を上げてきたらしい。 1回は打者に一塁を踏ませることなく相手の攻撃を終わらせた。 結構戦えてるんじゃないの? その裏 審判「ストライク!バッターアウッ!」 ウチの攻撃も三者凡退に終わった。この辺はまあ仕方ないだろう。 相手は強豪というのだからホイホイ点が取れるもんじゃない。 〜2回〜 相手の攻撃は4人で終わらせ、ウチの攻撃。 カンッ! 阿部「きた!初ヒット!」 1人目がヒットで出塁した。2人目がバントで2塁に送った。 そして3人目… キンッ! 阿部「つまったああ!」 一塁アウトで2アウト二塁である。 そしてついに俺の出番だ。 斉藤「ついに俺の実力を発揮するときがきたようだな。」 阿部「頼む!ここで1点!    相手の球種はカーブとストレートだ!」 俺はゆっくりとバッターボックスへ向かった。 目はいいほうだと思うが、素人なのでカーブは見えないかもしれない。 狙いはストレートだ。コースは読みだな。 バッターボックスに入ると独特の緊張感に包まれた。 審判「プレイ!」 さあここは… select "A:高めのストレート",*cg1,"B:低めのストレート",*cg1,"C:振らない",*cgb *cg1 (ど真ん中だっ!) カキーン! 斉藤「よっしゃ!」 コースは違ったがど真ん中だったので思い切って振ったらいい当たりだ! 俺は一塁へ進み、ランナーがホームへ生還した。 阿部「先制点!!」 結局この回1点取って1−0で2回を終えた。 〜3回〜 カキンッ! 阿部「くそっ!」 リードしたのもつかの間、相手の攻撃で2点を取られて逆転された。 そのまま硬直状態のまま、試合は続き、ついに9回の相手の攻撃が終わった。 相手の得点は2点。現在1点のビハインドだ。 〜9回裏〜 斉藤「そこだ!打て!」 打者「ぐっ!」 最後のウチの攻撃だがすでに2アウトランナー無し。 3人目の打者もタイミングを逃して打ち損じた。 打球は三塁側へのゴロ。 斉藤「ダメか…!」 これでアウトなら試合終了だ。 健闘したが… サード「うわわっ」 斉藤「お!?」 しかし相手のサードがバウンドの処理に手間取っている! 斉藤「よしっ!行け!」 サード「クソッ!」 サードが一塁へボールを投げる。 セーフか!? ファースト「おいっ!クッ…」 一塁へ投げられたボールは大きくファーストのグラブをはずれ、グラウンドの端へと転がっていった。 阿部「よっしゃ!エラーだ!回れぇ!」 サードのエラーから走者は一気に三塁まで塁を進めた。 チーム内がにわかに期待ムードで満ちる。 「うおぉぉぉ!きたぁぁぁぁ!」 そして誰もが予想していたこの状況がやってきたぜ… 阿部「斉藤!頼む!いける!落ち着け!動転だ!」 斉藤「まずお前が落ち着けよ。同点な。任せとけって!」 次の打者は俺だ。余裕の表情を見せてみたが最初の打席以来ボールに触れもしていない。 しかしあとは腹をくくって打つしかない。 俺はバッターボックスへ向かった。 バッターボックスへ入るまでの時間は1秒にも満たない時間に感じた。 楽しい時間は短く感じるものだ。今、俺、楽しんでる? 審判「プレイッ!」 泣いても笑っても最後の打席だ。思い切っていこう。 1球目は様子見だ。 バシッ 審判「ボール」 よし。2球目は… select "A:インコース高め",*cg2,"B:アウトコース低め",*cg2,"C:見送る",*cg2 *cg2 (低すぎるな。) バシッ 審判「ボール」 ボールはワンバウンドしてキャッチャーが抑えた。 相手もギリギリを狙ってきてるな。 3球目は… select "A:ストレート",*cg3,"B:カーブ",*cg3 *cg3 (よしっ来たっ!) キンッ 審判「ファールボール」 くそっ予想は当たったがバットにあて損なった…! これで1ストライク2ボールだ。 4球目は… select "A:一塁側へ打つ",*cg04,"B:三塁側へ打つ",*cg04,"C:正面へ打つ",*cg04 *cg04 (おりゃっ!) スカッ カーブでタイミングをずらされて空振りしてしまった。 やべぇ…2ストライク2ボール。ついに追い込まれた。 だが行くしかない!ここは… select "A:フルスイング",*cg05,"B:思い切って振る",*cg05,"C:よく見て打つ",*cg05 *cg05 (くっ…!ダメだ…) ズバッ! 審判「ボール!」 bgmstop (あ…あぶねぇ…振れなかった…) いきなり手が震えて俺はボールを見送っていた。 別にボールだと思って振らなかったわけじゃない… どうしていきなり手が震えるんだ…! (ん…あれ?なんだ足も震えてんじゃん。) 俺は冷静になって体に神経をめぐらせてみた。どうも体中がカチコチだったようだ。 意外と緊張に弱いんだね。俺って… 阿部「おい斉藤!ガチガチになってるぞ!聞こえてるか!?」 斉藤「うるせぇ!聞こえてるよ!」 すみませんウソつきました。全然聞こえてませんでした。 リラックスだ。そしてあらためて程よい緊張を… 審判「プレイッ!」 bgm "bgm\テンションアップ\Don't Look Back!!.mp3" うん。 もう大丈夫だ。さあ、次は… *cgr select "A:フルスイング",*cg06,"B:よく見てスイング",*cgrs,"C:見送る",*cgb *cg06 (どりゃあ!) カキーン! 「おおおおおおおおお!」\ bgmstop 「「ありがとうございました!」」 bg "bg\通学路(夕).bmp", 1 帰りの通学路。阿部と途中まで一緒なので二人で帰ることになった。 結局試合は俺のホームランでサヨナラ逆転勝利となった。 本当に出来すぎだったな。車にひかれないように気をつけないと。 ld c,":r;tatie\阿部.bmp",1 阿部「斉藤!大活躍だったな!」 阿部がうれしそうな顔で話しかけてきた。 斉藤「ああ、いやー!ラッキーだったわ!」 阿部「謙遜すんなよ!またよかったら、っていうか野球部入らない?」 斉藤「それは遠慮しとく。」 体を動かすのは好きだが、体育会系のノリにはついていけそうもない。 1チームのレギュラーより1回の伝説。それが俺の生き様だ。 今そう決めた。 阿部「そうか。残念だ。まあ誘ってよかったよ。本当に。」 そういやこいつ結局なんで俺を誘ったんだ? 友達いないって感じじゃなかったと思ったんだが。 まあ友達の都合もあるしそこまでおかしくはないか。 阿部「じゃあな!斉藤!」 cl a,1 そんなことを考えているうちに阿部と別れる場所まで来ていた。 ああ、今日は疲れた。 早く風呂に入って寝よう。 明日もまた同じ日常が待っているんだから。 goto *title_btnloop *cgrs (うっ、カーブかっ!) チッ! 審判「ファールボーッ!」 なんとかファールになったが危なかった… だがちゃんと見えてる。 次は… goto*cgr *cgb (うっ…しまった!) ズバッ ボールはど真ん中のストライク。 読みが外れたか…\ bg "bg\通学路(夕).bmp", 1 ld c,":r;tatie\阿部.bmp",1 健闘したが、結局この試合は2−1で負けてしまった。 阿部「まあいつものことだから、そんな凹むなよ。」 斉藤「凹んでないもん。」 阿部「こんな負け試合に誘って悪かったな。ありがとうな。試合できただけでもよかったよ!」 斉藤「うん…」 bg black,2 なぜか俺が阿部に慰められながら、二人で途中まで一緒に帰った。 そして俺は野球部に入る決意を固めたのだった。 この高校の無名だった野球部が、この夏快進撃を遂げ、全国ベスト4まで駒を進めることを誰もまだ予想していなかった。 goto *title_btnloop *c08 bgmstop 寺の息子だな。多分。 (…寺の息子……) (思い出した!佐々木だ!) そうだ、何で忘れてたんだろう!佐々木だよ。 やべ、普通にド忘れしてただけかよ… dwave 2,"se\chime1s.wav" ついに思い出したそのとき、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。 俺は強制的に現実へ引き戻された。 (やべっ!購買ダッシュ出遅れた!) スタスタ… ふと見ると佐々木は既に立ち上がって教室から出て行こうとしていた。 (ん、佐々木も購買組だったのか。) カチャ (ん?) 佐々木が何か落としたようだ。 何だろう。 dwave 3,"se\st004.wav" (…え?) bgm "bgm\heaven.mp3" ソレはなんというか、「3分で出来る料理」かと思いきや「3分で紹介できる料理」という意味の、 あの番組で有名なQP的人形のキーホルダーだった。 首から上だけは。 首から下が付いていればすぐに佐々木を呼び止めてソレを落としたことを教えただろう。 いや、正確にはソレにも首から下はちゃんと付いている。 首から下は魚の骨のようなものにつげ変えてあったのだ。 俺は理解の範疇からはずれたソレをしばし呆然と見つめていた。佐々木はとっくに教室内からいなくなっていた。 「斉藤、パンなくなるぞ?」 斉藤「え、ああ、おお!」 友達に話しかけられてわれに返った俺は、なぜかソレを拾ってポケットに隠した。 こんなものを友達に見せたくなかったのか、佐々木のいけない部分を誰かに見せてはまずいと思ったのか。 自分にも良く分からないが、とにかく隠してしまったのだから仕方がない。 ガラッ! そのとき佐々木がすごい剣幕で教室に入ってきた。 自分の席へ走って行くと、周りを確認してすぐにまた教室の外へ走っていってしまった。 佐々木は見たこともないような、つまり俺が今まで見た誰のどの表情とも違う表情をしていた。 俺は昼飯を抜いた。 佐々木がソレ、いや、コレを探していたのはバカでも分かることだ。 しかもあの剣幕はコレが誰かに見つかってはまずいことを明確に表していた。 そんなものを学校に持ってくるなよ… 5時間目と6時間目に俺はコレをこっそり観察した。 やはりQPのキーホルダーの首と魚の骨をつなぎ合わせたもののようだった。 魚の骨はなんというか…ミイラのような乾燥させた本物の魚の死体だと思う。 ひょっとしたら精巧な作り物かもしれないが、そこまでは判断できなかった。 壊して内側を見れば分かるかもしれないが、コレを壊すのは無理だ。 触れるのも気持ち悪いのに。 何か酷い禍々しさというか狂気を感じる。 落ち着いて考えるんだ。 とにかく状況は簡単だ。俺に出来るのはコレを佐々木に返すか、捨てるかの2択だ。 佐々木は俺が拾ったことに気づいていないはずだから、捨てたって問題はない。 問題はコレが佐々木にとって何なのか、ということだ。 もしコレが、ありえないだろうが、親の形見とかそういうものだったり、高価なものならば返すのがいいだろう。 しかしコレがもし、なんというか、見られてはいけないモノだった場合、気まずい感じになるのは必然だ。 さっきの剣幕を思い出すと、それもあながちありえないことではないと思う。 むしろ気まずい感じで済むのかどうかさえも疑問に感じる。 それほどあの時の佐々木の顔は異常な雰囲気をかもし出していた。 ここまで考えて俺はだんだん気になって仕方がなくなってきた。 もちろんコレが佐々木にとって何なのかということが、だ。 今俺がどうするべきか、という問題についてはもう答えが出ている。 捨ててしまえばいいのだ。 どうなるかよく分からないというリスクがある以上、佐々木のため、という理由はたやすく捨てることが出来る。 あとは捨てたら呪われそうとか思っている自分に反発したい意味もこめて、捨てるのが正解だ。 だが一度気になってしまうとどうしようもなくなってしまうのが俺の性分だ。 そういう時はとことんまで突き止める。 俺はそうやって今までやってきたのだ。 bgmstop dwave 2,"se\chime1s.wav" 放課後になった。 佐々木は昼休みギリギリに帰ってきてからは特に変わったこともなく、普通に授業を受けていた。 それを見てやっぱり返そうかとも思ったが、そのたびに昼休みのあの剣幕を思い出して思いとどまった。\ bgm "bgm\tw013.mp3" 俺は行動に移った。 まずは下校する佐々木の後をつけて佐々木の家を突き止める。 といってもこの辺で寺といえば一つしかないので、どこに住んでいるのかは分かっているのだが。 そこは気分である。 (後をつけるって言っても思ったより普通だな。) 佐々木はどこにも寄り道せずにまっすぐ帰っていた。 最初は気を遣っていたが、佐々木が振り返ったり全く警戒していないのを見ているうちにこちらも緊張感がなくなってきた。 (佐々木ももうちょっと何かないのかよ。昼はあんな剣幕だったのに…  飽きてきたしもう帰ろっかな…) bg "bg\寺.jpg", 1 そんなことを考えているうちに寺に着いた。 最初は正面から入るんだろうと思っていたが、裏に道がありそちらに入っていった。 まあよく考えれば当然か。正面は参拝客用だもんな。 佐々木は裏道から寺の隣にある家へ入っていってしまった。 (…!手詰まりだ…!) これからどうするか考えていなかった。 とりあえず参拝客として侵入してみるかな。 俺は表にまわって寺をのぞいた。 (普通の寺だな。) 見たところ特に変わったところもないように見える。 実家が寺とかそういうことはコレには関係ないのかな。 俺はコレをポケットから出して目の前にかざした。 (ん?) コレごしに何か不思議なものが見えた。 それは寺の壁の彫刻だった。 彫刻してある模様に人面魚?のようなものがあった。 (なんだこれ…) その周りには人間?が人面魚を取り囲むように彫刻されている。 敬っているのか、喜んでいるのか、いまいちハッキリ分からないな。 (しかし人面魚って…気持ち悪っ!コレも完全に人面魚だもんな…何か関連があるんじゃないか?) 思わぬ発見にマジで気持ち悪くなってきてしまった。 なんとなく寺全体から不気味なオーラを感じる気がしてきた… もう帰ろう。これだけ手がかりがあればあとは適当に考えれば納得できる答えが見つかるだろう。 (…しかしこれは面白い話になるな。都市伝説スレに書き込んで――) bgmstop 佐々木「あれ、斉藤君じゃない?」 (!!?) ld c,":r;tatie\佐々木.bmp",1 いきなり後ろから声をかけられ、俺は心臓が飛び出るほどびっくりした。 飛び出たことはないが。 飛び出るって、まさか口から…? そのためには胃から食道のどこかを心臓が突き破って… 佐々木「あれ?人違いでしたか?」 斉藤「いや、合ってる合ってる!斉藤!その斉藤だよ!うんうん。」 俺は不自然な間をとってしまったことを修正しようと出来るだけ自然に答えた。 割とうまくいった。 佐々木「どうしたの?こんなところで。」 斉藤「いやー、ほら、なんていうのかな、普通に参拝に来たんだけどおかしい?」 佐々木「いや、別におかしくはないよね。」 佐々木はにっこりと話しかけてきた。 あれ?意外といいやつ?とか思うような顔ではなかった。 笑顔を着てきましたみたいな顔してやがる。 これは…やっぱまずかった。本能がそう告げている。 斉藤「でもそろそろ帰ろっかなぁって思ってたんだよね。帰るかなぁ。」 佐々木「え?せっかくだから僕ん家に来ない?実は僕、ここの寺の息子なんだ。」 (知ってるよ!なんとか帰る口実を…!) 斉藤「え?マジで!?行く行く!」 だめだった。今ここで佐々木に逆らう方がまずい。本能がそう告げている。 別にとって食われるわけじゃ無し。コレについて探りを入れられても、必殺知らぬ存ぜぬモードでやり過ごそう。 bg "bg\田舎の家.bmp", 2 bgm "bgm\heaven.mp3" 斉藤「お邪魔しマース。」 佐々木「遠慮しないであがって?」 家は寺の隣にあった。当然ごく普通の民家だ。 (!!) 玄関に金魚が飼われていた。別に普通ジャン! こんなことで変に反応して怪しまれるのはダメ!ゼッタイ! でもむしろ変に無視するのもおかしいよね! 斉藤「キん魚飼ってるんだね!」 (やべぇ声裏返ったぁぁぁあ!) 佐々木「え?ああ、飼ってるよ。何で?」 あ、やばいやばい失敗だった。 フォロー入れろ!人生で一番のフォロー鯉!今鯉! 斉藤「いや、金魚好きなんでね。」 (なんじゃそりゃああああああ) 佐々木「え?それはちょうどいいね!」 斉藤「え?ああ、そうでしょ?」 あれ、なんか好感触? 佐々木はさっきみたいな笑顔じゃなくて本当にうれしそうな笑顔だった。 ひょっとしたら本当に金魚が好きで、話が合うやつに会えたのがうれしかったのか? そんな感じがして佐々木って意外といいやつ?とか思ってしまった。 そう思うと少しだけ落ち着いてきた。 金魚のマニアックな話とかされたら答えられないな、やばい(笑) 佐々木「ここが僕の部屋。どうぞ。」 斉藤「失礼しますよっと。ふーん。結構片付いてるな。」 佐々木の部屋はやっぱり普通だった。 そもそもなんで佐々木が普通じゃないとか言う話になってるんだっけ? …あ、そうだ、コレだ。 一瞬忘れてたコレ。やっぱりコレが俺の気持ちにブレーキをかける。 もうコレについて聞いちゃおっかな。佐々木も意外と普通っぽいし、いい機会かもしれない。 斉藤「あのさ、佐々木って…」 佐々木「斉藤君あのさ、さっき持ってアレ、返してくれない?」 (!!!) 絶妙なタイミングで先に聞かれてしまった! しかもこの言い方は俺がさっきコレを出してたの見られてたな… マズった…これは素直に謝るしかないか… 俺はコレをポケットから出して頭を下げた。 斉藤「ごめん!別に盗んだわけじゃなくて、拾ったんだけど、その、返しづらいものじゃん?それで返しに来たんだけど…」 佐々木「ウソつかなくていいんだよ?別に怒ってるわけじゃないんだ。」 よかった!なんか穏便にすませますオーラが出てるね! 用件コレだけなら返して帰ろう。もう疲れた。 佐々木「ただウチの決まりでさ、ウチに入信しないといけないんだよね。」 (え?) 俺が言葉を発するよりも早く、後頭部に強い衝撃が走った。 bg black,2 斉藤「…あれ。ここは…?」 bg "bg\rindou2.bmp", 2 気が付くと俺は椅子に縛り付けられていた。 あたりを見渡すと、暗くてよく見えないがさっきとは別の部屋だ。 目の前には大きなテーブルがある。 (…さっき?そうだ、俺は佐々木の部屋で…) そういえばまだ後頭部がずきずきと痛んでいる。 多分気絶させられたんだな。佐々木のヤツやっぱり普通じゃなかった。 殴って気絶させるとか漫画でしか見たことねぇよ。 ギィ bgm "bgm\アゲハ MEMO.mp3" ld c,":r;tatie\佐々木.bmp",1 佐々木「あ、気がついた?」 佐々木が後ろのドアを開けて入ってきたようだ。 縛られていて見えないが。 斉藤「おい!どういうことだよ!」 佐々木「だから入信してもらうんだよ。」 斉藤「意味がわかんねぇよ!説明しろ!」 俺は思ったことをすぐに口に出していた。 意外と冷静さを失っているようだ。一旦落ち着こう。 (ふぅ…) OK、冷静になった。 佐々木「ウチの信仰は仏教じゃないんだよ。寺は世を忍ぶ仮の姿って感じ?」 斉藤「…」 佐々木「ウチは人魚様を信仰してきたんだ。知ってるよね?人魚。」 とたんに胡散臭くなってきた。新興宗教ってことか? まぁ人魚は知ってる。詳しい話は知らないけど。 壁に彫ってあった人面魚のことを言ってるのか? 佐々木「人魚様の肉を食べると不老不死になれるんだよ。それでウチでは人魚様を養殖して、みんなで食べるんだ。」 まるっきり意味が分からない。 様付けてんのに養殖って… 佐々木「それで不死になれるんだけど、不老のほうはこの茂吉様しかなったことないんだよ。」 斉藤「この?」 佐々木「あれ?見えてなかった?ごめん!茂吉様は明るいのが嫌いだから、電気はつけられないんだ。」 俺はもう大分暗闇になれた目であらためて周りを見渡した。 正面の闇の中にあるものがだんだん分かってきた。大きなベッドだ。 しかも人がこちらを向いて横になっている。 (…?…え!?) その人は髪の毛は生えておらず、ものすごいお年寄りのようだった。 しかし、肌はびっしりと魚のうろこで覆われていた。 斉藤「うわ、わああああああ!」 (ないない、気持ち悪い、え?なにそれ?え?) 俺は情けない声をあげていた。 今までこんなものの前にずっといたという事実が俺の冷静さを完全に奪い去っていた。 斉藤「おい佐々木!なんだよこれ!」 佐々木「茂吉様は人魚様を初めて見つけられたお方だよ。まだ人の形を保っていられるほどの不老であられるんだよ。」 斉藤「うろこは!?」 佐々木「強い不老の力を得るとうろこが生えるんだ。僕は生えなかったから全然ダメだね。」 斉藤「お前も、食ったのか?」 佐々木「うん。ウチに入信したら15歳以上の人間はみんな人魚様を食べなくちゃならないからね。」 俺はだんだん冷静さを取り戻してきた。 かなり気持ち悪いものを見たが、アレだってうろこを皮膚に付けてるだけだろう。 本当にうろこが生えるはずはない。たとえ人面魚がいたとして、食べたって不老不死って… やっぱり新興宗教の類だ。あのうろこ爺を見せ付けて、信じさせるって手口だろう。 ここは信じて入信した振りをして、逃げて警察に行こう。 斉藤「なるほど…分かりました。それで、不老の力が強いってどういうことですか?」 信じた振りと素直に疑問に思ったことと両方の意味で聞いた。 佐々木「あれ、そっちも見えてなかったの?不老の力が弱いと不死のままどんどん老けて、腐っても死なないから、床にたくさん転がってるでしょ?こうなっちゃうんだ。」 (…?) 俺は初めて床を見た。 そこにはたくさんの--が蠢いていた。 佐々木「僕もいつかはこうなっちゃうんだよね。でもそれが素晴らしいことなんだよ?」 斉藤「ぅ、ぁぁ…」 bg black,2 俺は絶対にテーブルの上にあったものを食べなかった。 最初は強制されなかったので、このまま餓死しようと決めた。 しかし3日が過ぎると、佐々木は無理やり口の中にそれを入れようとしてきた。 bg "bg\rindou2.bmp", 2 佐々木「おなかすいたでしょ?何で食べないの?食べれば幸せになれる、の、にっ!」 (俺は、絶対に食わない!) ガヂッ! 俺は舌を噛んだ。もしこうなったら噛むと、この3日で決めていたことだ。 めちゃくちゃ痛い。半分くらいイったか? あまりの痛みに俺は一度諦めかけた。 しかし目線を落とすとそこには、--。 (ダメだ。これになるくらいなら死んだほうがマシだ。) 俺は折れかけた心を奮い立たせ、最後の一噛みのために大きく口を開いた。 佐々木「今だ♪」 そこに佐々木もあれを押し込んできた。 口の中があれでいっぱいになる。 だが俺のほうが一瞬早かった。 ブシュッ ボト (うっ…!?) (息が…!) 死ぬほど苦しい。でも俺は、--にならずに済んだことを喜ぶ余裕があった。 佐々木が何かを叫んでいる。 そんな心配そうな目で見やがって。 お前が俺を殺したようなもんだろうが。 しかし、窒息死が一番苦しいって言うのはホントなんだな。 bgmstop bg "bg\自室.bmp", 2 あの世は見知らぬ色の天井だった。 自分の家の天井と違う色だと、目が覚めたときに違和感あるよな。 (え?天井?) 俺は身体を起こした。 妙な気分だった。ここは多分あの世じゃあないな。 (…!?まさか…!) 俺は自分の舌がないのに気がついた。 呼吸もしていない。苦しい。苦しい! (し、死ぬ…) 俺は手を自分ののどに突っ込んだ。呼吸が!のどを開けないと! (え?) しかし呼吸が出来ない苦しみも吹き飛んでしまった。 自分の手からびっしりと生える、うろこを見て、俺は。 goto *title_btnloop *c09 bgmstop いじめ…とか? ……ああ、そうだ、アイツ存在感ないからまーた忘れちゃった。 昨日かっこよくしてやったのに、髪の毛全部切っちゃったんだな。 dwave 2,"se\chime1s.wav" 思い出したところでちょうど授業が終わった。 そういや購買のパンが残ってる確率なんてもう考えなくて良かったんだった。 アイツが買ってきてくれるようになったんだからな。 ガタッ bgm "bgm\帰り道 〜穏やか〜\マイペース.mp3" いつものようにアイツが購買へダッシュする。 アイツが転校して来てから、ホント学校が楽しくなったな。 感謝感謝。 ゆっくりと幸せな気分に浸りながらアイツを待った。 トボ…トボ… そんな音が聞こえてきそうな動作で、アイツが帰ってきた。 ld c,":r;tatie\いじめ.bmp",2 (くそっ、また焼きそばパン売り切れかよっ) アイツ「あの…斉藤君、ごめん…や、焼きそばパ、パンだけど…」 斉藤「もう分かってるよ!お前ホントのろまだわ…。で、コロッケパンは?」 アイツ「それは大丈夫だよ!はいっ!」 アイツはうれしそうな顔で俺にコロッケパンを渡してきた。 (何でパシられてうれしそうなんだよ…そういうとこマジきめぇ…) 俺は無言でパンと牛乳を受け取ると、食べ始めた。 斉藤「あ、お前はトイレで食えよ。なんか最近流行ってるらしいぜ。」 アイツ「え…なんかき、汚くない…?」 (…イラッ) 斉藤「ちゃんと汚くないように水で床掃除してから食うらしいぜ。床に座って。」 アイツ「え…」 アイツは少し嫌そうな顔をしていたが、絶対に嫌とは言わない。 しかも結局俺の言った通りにする。 (チッ…) 斉藤「早く行けよ!のろまが!」 アイツ「ヒィッ!ご、ごめん怒らないで!今行くから…」 cl a,1 アイツはそういうと何度かこっちを見ながら走っていった。 前は俺がいろいろやってやったが、アイツは自分から進んで何でもやるようになった。 今では俺は命令するだけでいい。 俺が見てなくても絶対に手を抜かねぇもんだからやることがない。 俺は見えないところですぐ手を抜こうとしたってのに… (クソッ…面白くねぇ!) それが全然面白くねぇ。 昨日も嫌がるところを逆モヒカンにしてやろうと思ったのに、結局自分から進んで頭を差し出してきた。 (つまりドM…なのか…) そう思うと突然気持ち悪くなってきた。 本当はそう思うならもうアイツに関わらなければいい。 だがそうもいかない事情があった。 昼休みも終わるころ、アイツが足から水を滴らせながら戻ってきた。 ld c,":r;tatie\いじめ.bmp",1 アイツ「斉藤君、ちゃんとやってきたよ!」 斉藤「当たり前だろ!汚ねぇから近寄るな!」 根岸「お、汚ねぇなw まーたいじめちゃってんの?」 横から根岸が話しかけてきた。 根岸「斉藤、もうちょっと手加減してあげればぁ?ガッコにばれたらメンドいじゃん?」 斉藤「…は、はい。」 根岸「はい、じゃなくて「ああ」でいいんだよ!?もう俺たちは「平等」なんだからさっ♪」 斉藤「あ、ああ、根岸く…根岸。」 森「そうそう、斉藤。お前は加減ってものを知れ、だな。」 こいつは森だ。 根岸「手本見してやんよぉ。おい、お前、放課後いつものとこ来いよ?」 アイツ「は、はい、分かってます!絶対行きます!」 森「手本見せるって後でかよ!バレないように今やるのが難しい、そうだろ?」 根岸「おいおいぃ、斉藤に対する手本なんだから、初心者向けにしたんだよw」 つまりこいつらはいじめっこだ。アホだ。 アイツが転校してくる前、俺はこいつらに標的にされていた。 パシられたし、髪の毛も切られたし、トイレ飯もそのマネをしただけだ。 俺が転校してきたアイツを標的にして、その状況をアイツに押し付けたんだ。 だがそれが自然。弱いものがより弱いものを標的にするのが自然だ。 俺もその被害者だったんだから、そのサイクルを回す権利がある。 根岸「じゃ放課後、楽しみにしてるよ〜。」 bgmstop bg "bg\校舎裏.bmp",2 bgm "bgm\heaven.mp3" 放課後、俺と根岸、森の3人はいつものように学生寮の裏に行った。 ここがバレないようにいろいろとやる現場なのだ。 森「あれ、珍しいこともあるもんだ、だな、まさに。」 今日は珍しくアイツがまだ来ていなかった。 珍しくというか初めてだな… (くそっ、こんな時は根岸が…) 根岸は標的が反抗するのを極端に嫌う。 イライラすると根岸は約束なんかすぐに忘れる。 根岸「おい斉藤!お前さっさとアイツ探しに行けよ!」 斉藤「わ、分かったよ…」 森「おーい、「平等」ってのはどうした、って思ってるかも、な?」 この状態の根岸を刺激すんじゃねぇよ!くそっ! 森は根岸からは絶対に標的にされない。 根岸から見て完全な同列だ。 森のほうは根岸を格下に見ている節があるが、根岸は気付いていないように思う。 根岸「斉藤のしつけがなってないからこんなことになるんだよ!」 確かに俺は言った。 「アイツを代わりの標的にしましょう!俺がまずアイツを標的にしますから、それが出来たら、俺を標的からはずして下さい。お願いします…」 根岸はその条件を飲んだ。 俺がいじめる側に回るということ、それを許可できるという立場も根岸を気持ちよくさせたのだろう。 アイツをいじめ続けること、それは俺が標的にされずにやっていく唯一の方法だ。 そう約束もしたし、そうでなくても標的がいなくなれば、また俺が標的にされるのは目に見えている。 bg black,2 俺はアイツを探して走った。 下校中のクラスメートに聞くと、アイツは家へ向かったようだった。 (クソッ、アイツなんで帰りやがった!) アイツの家は知っていた。近くのマンションの2階だ。 親が出てきたら友達だといって呼んでもらおう。 アイツは親にチクれるようなやつじゃないから問題ない。 カンカンカンッ\ bgm "bgm\industry.mp3" 俺は階段を上り、アイツの家の前に着いた。 ピーンポーン チャイムを鳴らして待ちながら息を整えていたが、返事がない。 ピーンポーン もう一度チャイムを鳴らすがやはり反応がない。 (…!まさかまだ帰ってきてないのか!?) やばい、ここじゃなけりゃどこにいるんだ!? 鍵がかかっていることを確認して、探しに行こうと考えていたが、 ガチャッ (え?) ドアは鍵がかかっていなかった。 (ということはやっぱり帰ってきてる?) …まさかアイツ居留守使いやがったか! クソッ!ムカついてきた! 誰も出ないってことは親はいないんだろう。 引っ張り出してやる。 俺はアイツの家へ入った。 斉藤「おーい!いるんだろ!?ちょっと来いやぁ!」 家の中はカーテンが閉まっているのか、ぼんやりと暗かった。 アイツの部屋は分からなかったが、部屋のドアに熱帯魚のポスターが張ってあったのですぐ分かった。 アイツは熱帯魚が好きなのだ。 斉藤「おい、開けるぞ!」 ガチャッ bg "bg\部屋.bmp", 2 俺はアイツの部屋のドアを開けた。 すると目の前には、大きな熱帯魚の水槽があった。 ゴポゴポと音を立てる水槽の音が、やけにうるさかった。 俺はまず水槽の中の、異様な光景に目を奪われた。 大きなアロワナが1匹、腹を上にして浮かんでいた。 藻の一つも生えていない綺麗な水槽に浮かぶ巨大なアロワナは、 なぜかとても美しく見えた。 不思議とすっかり穏やかな心になった俺は、 先ほどより部屋の中心に立つアイツが、既に事切れていることを悟った。 目を向けるとやはり、アイツは白いロープに全ての体重を預け、だらしなくぶら下がっているだけだった。 カーテンの隙間からさす夕日が、アイツのよだれに反射してきらきらと光っていた。 bg black,2 警察の事情聴取を受けた俺は、ゆっくりと帰路についていた。 根岸と森のところへは行っていないし、連絡もしていないが、もうそれは要らぬ心配のようだった。 なぜかと言えば、アイツの遺書が見つかったからだ。 俺は警察で、その内容を聞かされた。 「さようなら。僕はいじめられていました。  友達も一緒につれていきます。  恨みはないです。  でも、やっぱり死にきれないので、  やつらの名前を書きます。根岸と、森です。」 これで俺はある意味助かった。 ウチの高校は私立だし、こんな問題が発覚すればやつらは退学だ。 俺も退学を覚悟していたが、アイツの遺書には俺の名前はなかった。 クラスのやつらも俺がずっといじめられていたのをただ黙って見ていたのだから、 まさか俺もアイツを標的にしていたことは言うまい。 アイツも、俺が嫌々アイツを標的にしていたことを、知っていたのだろう。 そうだ、俺はアイツをいじめたくはなかった。 ただ自分が標的にされないように、人間として当然の権利を使っただけだ。 アイツ、ひょっとして俺を助けるために、あの遺書の書き方にしたのか…? アイツって俺の命令だけはうれしそうに聞いていたし、ドMだったなら、俺の仕打ちだってうれしかったはずだ! (そうか、この自殺も、俺のために…) 実際、アイツは俺が 「自殺してこういう遺書を書け」って言ったら自殺したんじゃないか? そうだ、アイツは遂に、俺が言う前に俺の本当の希望を読み取って、叶えてくれたんだ! 俺が「自殺しろ」だなんて、言いたくないってことも、きっと分かってくれてたんだな。 (うっ…ごめん…俺のために…!) 俺はその夜、アイツのために泣いた。 次の日、やはり根岸と森は学校を辞めた。 担任からこの事件に関する話があったが、俺に対するアクションは何一つなかった。 クラスのやつらも何だかホッとしたような、同情のような視線で俺を見ているのが分かった。 俺は完全に解放された。 もういじめるのも、いじめられるのも嫌だ。 地味に幸せに暮らしていける。 bg "bg\寺.jpg", 2 俺はアイツの葬儀に参列した。 受付に行くと、アイツの母親らしき人が俺の名前を見て言った。 母「あら、あなたが斉藤君ね。来てくれてありがとう。あの子もきっと喜んでるわ…」 どうもアイツは俺のことを母親に話していたらしい。 意外だ。 母「実はね、あの遺書の裏に、この遺書は最後は斉藤君にあげてほしいって書いてあったの。もらってあげてくれる?」 よく分からないが、俺は遺書を受け取った。 確かに裏にはこの遺書を俺に渡すように書いてあった。 やっぱり俺のための遺書、ってことだろう。 それを言いたいが、遺書に書いてしまえば警察や学校に事情がバレて、俺もただでは済まなくなるから、こうしたメッセージになったのだろう。 bg "bg\自室.bmp", 2 俺は焼香を済ませて帰宅した。 アイツのおかげで、明日からは本当に楽しい学校生活になるだろう。 (ありがとう…) 俺はなんとなくアイツの遺書を見直した。 (ん?) 小さいけど最後に何か書いてある。 えーと… 「ぼくより」 (ん???どういうことだ?) 「より」ってことはアイツから、誰かに当てたメッセージであることを表している。 当然家族宛だと思っていたが、そういえばこの遺書は俺に渡されるように書いてあった。 ということはこれは、俺宛ってことか。 そしてこの「ぼく」というのは、何を意味しているのだろうか。 普通は自分の名前を書くよな。 つまりこの場合、ええと… (アイツってなんて名前だっけ?) そういえばアイツの名前を覚えていないことに気が付いた。 転校してきたアイツは、俺にとって運命の女神に見えた。 標的を変えることを根岸と森に提案し、それが成功しても慣れないいじめを覚えなければならなかった。 名前なんて覚える暇がなかったんだ。 …… あー分からん! こんな書き方する意味も分からんしアイツの名前も分かんねぇじゃん! 俺がアイツの名前を覚えてないことに気が付いただけだ。 何の意味もないわ! (あーなんかムカついてきた。寝よ。) 俺は最後にもう一度だけ遺書を読み返した。\ 「さようなら。ぼくは  いじめられていました。  ともだちも一緒につれていきます。  うらみはないです。でも、やっぱり  死にきれないので、やつらの名前を書きます。  ねぎしと、もりです。」 goto *title_btnloop *c05 女だな。しかも綺麗なストレートの黒髪ロングだ。 うちのクラスにこんな髪の女子っていただろうか…? いまだに該当の人物が思い当たらないことに不思議な気分を覚えつつ、俺はさらに考えた。 (……あの髪の毛……) select "A:図書委員かな?",*c11,"B:美しすぎる",*c12 *c11 bgmstop 図書委員かな?あの髪で運動部ってのはないだろう。 (…図書委員…) (そうだ!ユキだ!) なんで忘れてたんだろう。あれは幼馴染で図書委員のユキだ。 やべ、普通にド忘れしてた… ユキは俺の幼馴染だが、最近はあまり話しをしていない。 最近というか、実はある事件以来、ほとんど話していない。 …実は昔バレンタインにもらったチョコが、とても不味くて食えるものではなく、 その場でチョコを返したせいで泣かせてしまったのだ。 いつか謝ろう、そう思いながらも実行に移すことが出来ず、今日まで気まずいまま過ぎてしまっていた。 そういえば今日も2月14日。バレンタインだ。 あの日も今日みたいに、雪が積もっていた。 やっぱり、謝らなくてはいけないな。 忘れていた分際で、と思うかもしれないが。 dwave 2,"se\chime1s.wav" 昔話に浸っていると、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。 俺は強制的に現実へ引き戻された。 (やべっ!購買ダッシュ出遅れた!) ユキ「……」 (うおっ、びっくりした…) 急いで財布を確認していると、ユキが目の前に立っていた。 そして1枚の紙を渡してきた。 スタスタ… ユキはその紙を俺に渡すと、早足で教室から出て行った。 その折りたたまれた紙を開くと、中にはこう書いてあった。 『放課後付き合って』 (え?これって…)\ bg "bg\教室夕.bmp", 1 放課後になった。 西日が差し込み紅に染まる教室には、なぜか俺とユキの二人しか居なかった。 俺は教室の左端から窓の外を、ユキは右端から同じように外を見ていた。 朝は一面足跡一つなかった雪化粧は、足跡まみれで見る陰も無かったけれど、紅い化粧が加わってこれはこれで綺麗だと思った。 微妙な沈黙。 お互いが喋り出すタイミングを掴みあぐねている。 この美しい光景をずっと眺めていたかったけれど、 冬の夕暮れは短いから終わりにしなければ。 ld c,":r;tatie\yuki_reipu.bmp",1 bgm "bgm\帰り道 〜夕日〜\桜.mp3" 斉藤「ユキ、俺お前に謝らなきゃいけないことがあったんだ。」 ユキ「知ってる。」 斉藤「あぁ…俺はあの時、チョコを作ってくれたお前の気持ちも考えずにひどく貶してしまった。」 斉藤「それだけじゃなくて、それが悪いことだって分かってたくせに、ずっと謝るのを忘れていた…」 斉藤「本当に、ごめん!」 誠心誠意頭を下げるなんて、今まであっただろうか。多分無いだろう。 ユキの顔は夕陽のせいでよく分からなかった。いつも通り何食わぬ顔をしているのだろうか。 ゆっくりとユキが近づいてくる。手には、いつか見た物を持って。 ユキ「これ…食べてみて…」 無愛想な声じゃなく、昔のユキのおどおどした、ちょっと震えている声。なんだか懐かしい。 包みを開けると、オーソドックスなハート型のチョコ。 斉藤「じゃあ、食うぞ…」 どこからどう見ても普通なチョコにかじり付く。 いつもの突き放すような冷たい瞳ではなく、不安そうな影がちらつく暖かい瞳が俺を見つめる。 上目遣いの視線に、少しドキドキする。 斉藤「………あ…うまい。」 どこまでも普通なチョコだった。あぁ、でも少しミントの香りがする。 凄いな。手作りってただ湯煎して固めるだけじゃないんだな。 ユキ「……よかった…」 ―視線を戻すと、ユキが肩を震わせて泣いていた。 斉藤「おっおい!どうしたんだよ!?また俺なんか変な事言ったか?」 ユキ「違う…おいしい、って言ってくれたから…」 斉藤「あぁ、おいしいよ。凄いな、これ。ちょっとミントの香りもして。俺こんなの初めて食べた。」 ユキ「……ぐすっ…」 斉藤「って泣くなよ!?……あーでも、本当にごめんな。俺がせっかく頑張って作ったのをマズイなんて言うから。」 ユキ「違う。あの時泣いたのは、悲しかったからじゃない」 俺はユキの言葉を待った。 ユキ「私のせいで、嫌な思いさせた、って思ったら…自分が嫌になって…」 斉藤「そんな!……うん、そうか、そうだったのか。でもごめんな。謝るのも忘れてたし。」 ユキ「…気にして無い…私も、嫌われたと思ったら…恐くて…君も友達と遊ぶようになってたし…」 斉藤「……」 ユキ「私、人と話すことが恐くなって…どんどん孤立していって…。気が付いたら、もうこんな…」 俺が謝らなかったことで。ユキは自己嫌悪に陥って。 俺がつまんないメンツを気にしてたせいで、それを悪化させて。 彼女がこうなったのは俺のせいじゃないか。 ユキ「…でも、渡してよかった。本当は止めようと思ったけど、このままでいるのはつらかったから」 斉藤「…つまりそれって…」 ユキ「君を、好きだってこと」 赤かった。 夕陽のせいだけじゃない。そんな赤より、もっと綺麗な赤に、彼女の頬は染まっていて。 不安な気持ちを隠すために、両手はスカートを握りしめていて。 精一杯自分の気持ちを伝えようとする彼女の姿は― とても、美しかった。世界中の、何よりも。 斉藤「俺は、正直付き合うとか、そういうのがよく分からない。けど―」 斉藤「ユキ、お前と二人ならそれが分かるような気がするよ」 海辺に眠る白い貝も。 山にひっそりと咲く名も分からない可憐な花も。 世界は美しいものに溢れていて、キラキラしているけれど。 それよりも何よりも、今目の前の少女が、俺の世界で一番輝いていた。 西日が差し込み紅に染まる教室には、俺とユキの二人だけ。 長く伸びたその影は、次第に近づいていき、やがて一つになった。 goto *title_btnloop *c12 bgmstop 美しすぎる… (なんだあの髪の毛…だめだ!逆らえない!) どこの誰かは知らないが、俺はその人物に、一目で恋に落ちた。 dwave 2,"se\chime1s.wav" 授業の終了を知らせるチャイムでさえ、もう俺を現実に引き戻すことは出来なかった。 俺は昼休みと午後の授業の最中、彼女から目を離すことが出来なかった。 彼女は机に突っ伏したまま、結局動くことはなかった。 しかし遂に学校での日常が終了し、帰宅の時間となった。 bgm "bgm\u-chi-u.mp3" ガガッ 彼女が立ち上がった。彼女につられるように、俺も立ち上がった。 俺は彼女の後をついていった。まるでそうすることが当然のように。 何かがおかしかった。自分のすることに疑問を持つことが出来ない。 とにかく今は彼女の後をつけることだ。 (あれ?ど、どこだ!?) しかしそれからすぐ、生徒玄関で彼女は放課後の混雑する人波の中に消えていってしまった。 (クソッ、やばい、ダメだ!) 俺は必死に彼女を探して走った。 主な通学路、寄り道の代表場所の公園やコンビニ、バス停。 そしてそこにいる生徒たちに彼女を見なかったか聞いた。 しかしそんな苦労も虚しく、既に夕日は地平線の下へ沈んでいた。 (うっ…くそっ…) 俺は絶望感に打ちひしがれ、公園のベンチでうなだれていた。 なんで俺はこんなに悲しんでいるのか。 これが、恋、なのか…? そのとき公園の時計の針が6時ちょうどを指した。 俺はそれをなんとなく見つめていた。 時計の針がまっすぐな直線になる時間。 俺はこの時間を待っていたような気がする。 なんだったか… (…あ、そうだ、行かないと。) 俺は思い出した。 自分の行くべき場所を。 カンカンカンッ 近くのマンションの一室。 俺は今日もここへやってきた。 もちろん俺の意思でだ。 放課後の俺とは違う。 まぁ、あれも俺の意思には違いないのだが… 俺はチャイムを押しもせずに、ドアを開けた。 もう何度も来ているので、自分の家のようなものだ。 (はぁっ…はぁっ…!我慢できない!早く!) 俺は急いで中へ入っていった。 なんといっても丸一日ぶりの再会である。 一日というと長くないように聞こえるが、俺の場合は百年より長く、 しかし一方で1分にも満たないような短い時間にも感じる。 ガラッ bg "bg\自室.bmp", 2 ld c,":r;tatie\幼女.bmp",1 俺は最後のドアを開けた。 そこには彼女が座っている。 斉藤「ただいま戻りました。」 彼女「時間ピッタリね。いい子よ。…おいで。」 俺は呼ばれるままに彼女の前に跪く。 彼女は俺を毎日3回だけなでてくれる。 彼女「今日もドキドキした?初恋のように。あの日のようにまた私を追いかけて…楽しかった?」 斉藤「はい。」 彼女「明日もまた、今日のような日であって欲しい?」 斉藤「はい。お願いいたします。」 彼女「じゃあ、私の目を見て…」 俺は彼女の目を見る。 彼女を絶対に忘れないように。 彼女を自分に刻み込むように。 彼女「この部屋から出たら、あなたは私のことを忘れる。そして、また私に一目惚れするのよ。」 斉藤「…」 彼女「そして時計の針がそろったら、また私のところへ来なさい。」 斉藤「…」 そして俺の意識は闇に飲み込まれていく。 bg black,2 (ん?ここ…どこだ?) 俺は知らないマンションの前に立っていた。 もう夜も遅い時間だ。 (やべ、なにやってんだろ。早く帰ろ。) 最近毎日こんな感じだ。 いつの間にかここに立っている。 でも不思議と嫌な感じではなかった。 ここで気がつくと、いつも心がポカポカ暖かいような、すごく満足した気持ちになっている。 でも、明日には、もっといいことが起こりそうな、そんなワクワクした気持ちにもなる。 きっと明日もいいことがある。きっと人生で一番いい日になるだろうな。 そんな予感がするのだ。 だから俺は今日も軽いスキップで家路に着いた。 goto *title_btnloop *c06 bgmstop わからないな… bgm "bgm\deck brush detective.mp3" (ん?わからないってどういうこと?) 俺は自分の頭を疑った。 授業中で机に座ってるんだから、クラスメートのはずだ。 そして人間である以上、男か女かしかない。 クラスメートは制服を着ているのだから、男か女かは一目瞭然だ。 (……あそっか。遠くてよく見えなかったんだ。なんだそういうことか。) 俺は納得した。「遠くて見えなかったんだ」 それしかないもんな。うん。 //wserdcfvgbhnk//@ //rtyujikvgtyuauyihae//\ (そうに決まってる。) ((いやちょっと待てよ。)) (もう答えは出てる。) ((おかしくないか?)) (えーと、『アイツ』は…男かな?) ((いやいや、おかしいぞ)) //禁rdc為でbhnk// //rty考のリセッtyuauy行しe// (男か女か、一瞬で見分けが付かないのはおかしい。) (男だと思ったから男に見え出したんだ…) 禁止行為です 思考のリセットを実行します (ダメだ!もう気付いた!) 俺は気付いてしまった。 『アイツ』のシステムに。 ほら、『アイツ』はそこにある。 あれは何だ? よく見てみよう。本当の『アイツ』を。 『アイツ』はただの球体だった。 切れ目や継ぎ目は一切ない。 俺の頭の中に干渉してきていたのだ。 (『アイツ』は…あれは…なんだ!?) どう見てもただの球体だった。 こんなもの『アイツ』でもなんでもないじゃないか。 ただのモノだ。 問題は、これを置いたやつがいる、ってことだ。 (いったい誰が?何の目的で?) (って一回言ってみたかったんだよな。) と冗談はさておき、俺は考えた。 この球体の機能は俺の認識を使って幻覚(幻体験?)を見せることのようだ。 そんなことをする目的は何だ? 1、俺の動きをコントロールする 2、俺の思考をコントロールする 他になんかあるか? とりあえずないかな。\ まず1は、もっと言えば、 1−A、俺にされては困ることがある。 1−B、俺にさせたいことがある。 2も大体同じか 2−A、俺にされては困る思考がある。 2−B、俺にさせたい思考がある。 うーん、2はあまり現実的ではないかな。 だって俺の思考なんてどうだっていいだろ。 俺が将来、革命軍の切り札になるって展開はさすがにない。 将来それにさせたいってのもおかしい。 あとはAもちょっとな。 俺にされては困ることって、何かあるか? 俺は自分で言うのもなんだが、正直地味で人畜無害な男だ。 日本を変えてやろうとか、人類を滅亡させてやろうとか考えることはない。 そうなると答えは、1−B。 つまり「俺にさせたいことがある」かな。 だけどこんなところにこんなアイツを置いて、それで俺に何をさせるって言うんだ。 ここまでか…これ以上は今の手がかりでは無理だ。 (どうするかな…) ん。そうだ、どうせなら、この球体をフル活用してみるってのはどうだろう。 俺の認識でこの球体が『アイツ』になるなら、『アイツ』はそう… select "A:黒幕だ。", *kuromaku *kuromaku 黒幕だ。 そうだ黒幕だ。 なんだ黒幕かぁ。 ド忘れしてたぜ…。 bgmstop dwave 2,"se\chime1s.wav" やっと思い出したときに、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。 俺は強制的に現実へ引き戻された。 (やべっ!購買ダッシュ出遅れた!) bgm "bgm\deck brush detective.mp3" ld c,":r;tatie\黒幕.bmp",1 黒幕「え、君って斉藤君?」 黒幕が話しかけてきた。 そっちから話しかけておいて、その言い草はないだろう。 斉藤「そりゃそうでしょ。で、あんたはなんで『アイツ』を置いたんだ?」 俺はいきなり核心に迫った。だって相手が黒幕なら、もう聞くしかないでしょ? 黒幕「いや、そりゃー斉藤君の行動を見て楽しむためさ!」 斉藤「は?どういうこと?」 どうも意味が分からない。 黒幕「だから、君がいろんな『アイツ』に出会って、いろんな行動をする。」 斉藤「はぁ。」 黒幕「それを俺たちが見て楽しむ。それだけの話なんだけど…」 斉藤「は?なんとなく意味は分かってきたけど、それってつまり、俺は見世物ってこと?」 俺はなんだかこの黒幕の男が、自分を馬鹿にしてるような気がして、少しイラついた。 黒幕「だって君は、見世物になるために生まれてきたんだよ?」 斉藤「ちょっと待てよ。俺はお前らの見世物になるために生まれてきたんじゃねぇぞ。ちゃんと親父とお袋が愛し合って結婚して、生まれてからもいろんな人に支えられてここまできたんだ。」 黒幕「それは俺らの作った設定だよ。この前考えたやつさ。」 斉藤「違う!俺は今まで自分の人生を生きてきたんだ!そんな昨日今日考えたような、チャチなもんじゃ断じてねぇ!」 黒幕「はぁ…。じゃあそれを証明できる?」 斉藤「しょ、証明!?」 黒幕「そ、証明。」 斉藤「なんだよそれ、そんなの、出来ねぇよ。じゃあ、お前は出来んのかよ!?」 黒幕「俺らは、ほら、そんなの必要ないし?」 斉藤「おかしいな。俺には証明しろと言って、あんたらは証明しなくていいって言う。こだまですか?いいえ、誰でも。」 黒幕「だから、それは俺たちは君らを作ったんだから、それが証明さ。」 斉藤「そういう「設定」なんじゃないの?設定じゃないって証明してみろよ?」 黒幕「…いや、うーん。それは…」 斉藤「自分の言っていることが理解できたか?その理不尽さをさ。」 黒幕「…まあ理屈でどうと言っても、俺らは「現実」に生きてるからさ。」 斉藤「俺だって「現実」に、今、ここに、生きてるぞ。」 黒幕「まあまあ落ち着きなって。確かにそうだ。悪かったよ。確かにその球体を置いたのは俺たちさ。理由もさっき言った通り。それは揺るがない。他に何かあるかい?」 斉藤「そうか、まあそれだけなんだけど。」 黒幕「OK。じゃあそろそろ俺らは帰るけど。君はどうする?」 斉藤「俺はもちろんここにいるよ。それよりお前らこそどうすんだ?この「現実」から帰っちまって。」 黒幕「君と同じさ。ただ「現実」を、今を、ここで、生きていくだけだね。」 斉藤「おう。やっと分かったみたいね。じゃあまた。…会うかな?」 黒幕「それはわからないなぁ。未来の話は誰にも分からない。」 斉藤「そりゃそうだ。じゃあ、さようなら。」 黒幕「ああ、さようなら。」 黒幕は帰っていった。 見れば球体はまだ残っている。 bgmstop そういう「現実」。 じゃあまた、退屈な日常に戻りますかね。 今日もこの俺、斉藤は生きている。 goto *title_btnloop *c02 どうにか近づいくことは出来ないだろうか。 誰か分からないときは顔を見るのが一番だ。 (とりあえず近づきたいな。どうするか…) select "A:消しゴムだな",*c016,"B:手を挙げればいい",*c19 *c016 bgmstop bgm "bgm\tw017.mp3" 消しゴムだな。 善は急げだ。オペレーションE、実行! 斉藤「うわぁ。消しゴムを落としちゃったぞぉ。」 俺は極めて自然に消しゴムを投げる。 もちろんアイツのほうへ向けて、である。 コロコロ… 消しゴムはうまい具合に転がっていった。 あとは誰か親切な人間に拾われる前に、取りに行くことをアピールする! 斉藤「はぁ、メンドくさいけど自分でとるのが筋ってもんだよなぁ。誰かに拾ってもらったりしたら申し訳なさ過ぎるから、時には拾わないのも親切のうちなんだなぁ。」 先生「斉藤ォ、気をつけろよ〜?」 ワハハ… 適当にみんな笑う。 よし、これでいい。俺は立ち上がってアイツに近づいていった。 (クソッ、突っ伏してて良く見えない!) しかしアイツは女子だった。そしてアイツの下にある消しゴムを拾う。 (顔っ、顔が見えないか…!) 残念ながらほぼゼロ距離でなめ回すように見ても顔は分からなかった。 (ん…この匂い…) しかしとても甘くていい匂いがした。こんな匂いは今まで嗅いだことがない。 しばし席に戻るのも忘れ、その場で匂いを嗅いでいた。 bgmstop dwave 2,"se\chime1s.wav" 席に戻った後もあの匂いが忘れられず、ボーッとしていると授業の終了を告げるチャイムが鳴った。 (…あ、やべ、購買ダッシュ出遅れた…) しかしどうも食べる気が起きない。 それよりあの匂い… アイツのところにもう一度行こう。 しかしアイツはそこにいなかった。 そしてあの匂いも消えていた。 (うーん。残念…) 俺はしかたなく購買へ向かった。1階まで階段を降りたときだった。 bg "bg\rouka.jpg", 2 bgm "bgm\tw021.mp3" (ん!?あの匂い!!) どこからかあの匂いが漂ってきたのだ。 俺は購買なんて後回しにして、その匂いを追った。 (クンクン、こっちだ!) 犬みたいだな、とか思いながらも、なんとか匂いを追っていけた。 匂いは外から漂ってくるようだ。 ここまで来たらためらうことはない。 俺は靴を履き替えて玄関から出た。\ bg "bg\グラウンド.jpg", 2 (おお、こっちだこっちだ!) だんだん匂いは強くなっている。 こっちで間違いないぞ!\ bg "bg\校舎裏.bmp", 2 俺はしばらく歩いて、匂いの1番強い場所へたどり着いた。 どうも廃工場のようだった。 俺は金網の隙間を抜けて、中へと入っていった。\ bg "bg\rindou2.bmp", 2 (いい匂いだぁ。) もう匂いが強すぎて、頭がクラクラしている。 足もフラフラする。 (ん?あれは…) よくわからん機材の上に、アイツが座ってこっちを見ていた。 アイツから一際強い匂いが漂ってくる。いや、もう漂っているというより直接ぶつけられているようだ。 我慢できない。 俺はアイツへ一歩ずつ近づいていった。 よく見るとアイツの前に誰かがいる。 あ、教室でアイツの後ろに座ってた田中だ。 田中がアイツの目の前まで進んだ。 バグンッ (え?) 田中はアイツに頭から喰われた。 一口で腰から上はアイツの口の中に消えた。 血がきれいに吹き出していて、噴水みたいだと思った。 少し血の匂いが混ざってしまったのが残念だが、俺もアイツの匂いを嗅ぎに、 さらに歩を進めた。 (ああ、いい匂いだ。) 俺は、遂に匂いの発生源である、アイツの口の中へ飛び込んでいった。 (ああ、幸せ♪) dwave 2,"se\st010b.wav" goto *title_btnloop *c19 bgmstop 手を挙げればいい。 とりあえず角度を変えて観察したい。 よし、先生。来いよ。 先生「えーと、じゃあ次の問題を、誰にやってもらおうかなァ〜?」 ナイスタイミング! 斉藤「ハイッ!先生!俺がやりまっす!」 先生「はぁ!?お前、さっき当てたけど聞いてなかったろォ!?」 クソッ、さっきの最悪がまだ尾を引いてやがる! しかし!そんなものは実力で切り抜ける! 斉藤「先生!リベンジさせてください!お願いします!」 余計な言葉は要らない。 数学の教師だからこそ、こういう精神論に弱い。 先生「お、おぉ分かった!いいことだ。やってみろ!」 はいチョロイっす。 俺はアイツを凝視しながら黒板の前まで移動した。 前から見ても顔はガッチリガードされていて見えない。 しかし制服からみて男のようだ。 先生「おい斉藤、問題問題…」 ああうるさいな。ちょっと黙っていられないのかコイツは。 先生「どうしたんだ一体ィ?その席がどうかしたのか?」 うっ。こいつ結構観察力があるようだな。 そろそろ潮時か。適当にごまかして帰ろうかな… 先生「その席はあんまり見続けると呪われるぞォ?」 「先生!不謹慎です!」 先生が怒られてシュンとなった。 しかし不謹慎ってどういうこと?呪いって? dwave 2,"se\chime1s.wav" そんな状態で授業の終了を告げるチャイムが鳴った。 ごまかす手間が省けたな。 俺は購買へダッシュした。 bgm "bgm\アゲハ MEMO.mp3" 今日は焼きそばパンが売切れてしまったので、アンパ○マンあんパンで我慢だ。 俺は教室でアンパ○マンあんパンを食っていた。 しかしあのことが気になっていたので、アイツの席を観察していた。 アイツはいない。さっきの会話が気になる。 目の前に座っている田中に聞いてみるか。 斉藤「なあ田中、あそこの席って…」 田中「ああ、恐ろしいね…自殺なんて。」 斉藤「自殺?」 田中「あれ?知らないの?アイツ、自殺したんだよ?」 斉藤「え?」 俺は何か重大な引っ掛かりを覚えた。 田中「たしかどっかのビルから飛び降りたらしいんだけど、その途中で電線に引っかかって、顔だけズルッと剥がれちゃったんだって…」 斉藤「か、顔…?」 田中「そう、飛び降り自殺って落ちてる最中に気を失うらしいから、痛くはなかったかもしれないけど、逆に幽霊になっても、なんで顔がないのか分からなくて成仏出来なくなっちゃったりして…」 田中よ、ノリノリだな… しかしもちろん、その自殺は昼休みに起きたことではないだろう。 俺は引っかかりの原因を理解した。 アイツは、いわゆるアレだった… 俺は、もう一度だけアイツの席を見た。 アイツは席にはいなかったが、さっきは間違いなくいた。ように見えた。 まさか寝るために学校に来る幽霊がいるだろうか。 あれは多分、起きてたんだろうな。 ただ顔を隠したかっただけなんだろう。 田中「しかしアイツ、何で自殺したんだろうね…どうも遺書には、「アイツにとられる前に死にます」って書いてあったらしいよ?意味がわかんないよねぇ。」 田中はそういうと紙パックの牛乳をすすった。\ …しかし俺にはその意味が分かってしまったのだ。 さっきから物欲しそうな顔で、いや、 物欲しそうな「無い」顔で、こちらを見て(?)いるアイツと目(?)が合ってしまっていたのだから。 goto *title_btnloop *c03 ちょっかいをかけてみよう。あの状態ではどんなに見ても良く分からない。 アイツ自身に何かアクションを起こしてもらわねばなるまい。 そうと決まれば問題は何をするかだが… (こういうときは、アレだな…) select "A:手紙を回そう",*c115,"B:紙飛行機作戦だ!",*c116,"C:シャープペンを投げる",*c117 *c115 bgmstop 手紙を回そう。聞いてみるのが一番ともいえるが、それは難しい。 それより直接的なのが…これだ。 『おい、誰かが後ろから狙ってるぞ』 これだ。絶対に振り返る。振り帰らざるを得ない。 完璧な作戦である。 では… 斉藤「(これアイツまで…)」 手紙がどんどん回っていく。ワクワクする。 アイツの後ろの席から、アイツへと手紙が渡る。 (おっ!読んでる読んでる!) ガタッ 次の瞬間アイツが立ち上がって振り向いた。 予想より速く大きい動きだったので、少しびっくりしてしまった。 (うーんと、地味な顔だな。あれ、結局誰だ?) そのとき、 パンッ パリーンッ ドサッ 「キ、キャーーーーーー!!」 「どうした!?」 「アイツが、アイツが撃たれたぞ!」 「救急車だ!誰か救急車を呼べぇ!」 先生「え?な、なに?なんで?」 アイツは額と後頭部から大量の血を吹き出してその場に倒れこんだ。 アイツは撃たれる前、何か、大きな恐怖に引きつった顔をしていた。 ひょっとしたら元から撃たれるかも、という不安があったのかもしれない。 まさか俺の手紙だけで本気で撃たれると思うバカはいないだろう。 いったいどういう生活をすれば高校生のうちに狙撃で暗殺される人物になれるんだか… 俺は目の前で人が死んだってのに、全く現実味が沸いていなかった。 〜〜 結局、警察が大々的な捜査を行ったが犯人は捕まらなかった。 俺はアイツが狙撃されたであろう場所に来た。 反対側の校舎の屋上だ。 確かにここからアイツの席が見える。時間もちょうど昼だ。 (ん?) 今は教室の窓がアイツの席のところだけちょうど空いている。 しかしほかの部分は窓が反射して景色を映し出していた。 (これって…) あの日、まだ少し肌寒かったので、教室の窓は全て閉まっていた。 誰かが開けようとして「寒いから閉めて」と言われていたのを覚えているので間違いない。 (この時間はここから、アイツは見えていなかった?) どういうことだろうか… トリックもクソもない。物理的に不可能な事件が起こっていたのだ。 しかし俺はなんとなく予想がついてしまっていた。 すなわち、俺のあの手紙。アレさえなければアイツは死ななかったのだ。 理由は全く分からない。 しかし俺には確信があった。 だって『アイツ』が誰だったのか、俺は未だに思い出せないでいたのだから。 goto *title_btnloop *c116 bgmstop bgm "bgm\ibuki.mp3" 紙飛行機作戦だ! 変に凝ったことをする必要は無い。 直接物をぶつければいいのだ。 俺は今日配られた数学のプリントを飛行機にした。 (うん。出来た。) 俺はアイツ目掛けて紙飛行機を飛ばした。 しかし、紙飛行機は途中で真上に軌道がズレ、失速してそのまま落ちてしまった。 アイツまでは届かなかった。 (クソッ、次こそは!) さっきのは頭が軽かったのだ。前の部分を二重に折って… (出来たぞ!紙飛行機さん2号!) 俺はアイツ目掛けて紙飛行機さん2号を飛ばした。 しかし、紙飛行機さん2号は途中で左に曲がってしまった。 アイツまでは届かなかった。 (クソッ、絶対にアイツに届くのを作ってやる!) さっきのは左右の羽に微妙なゆがみがあったのだ。 しかも羽が1対しかなかったので、そのゆがみが大きくなってしまった。 今度は真ん中を折り返して、方向を修正する第3の羽を付けた。 (出来たぞ!紙飛行機様3rd!) 俺はアイツ目掛けて紙飛行機様3rdを飛ばした。 (お、いいぞ!) しかし、紙飛行機様3rdは最後に微妙に右に曲がってしまった。 アイツまでは届かなかった。 (クソッ、またダメだった!) さっきのはスピードが落ちたときに左右のバランスを支える羽がなかったのだ。 だから最後にコースが微妙にズレてしまった。 今度はイカ飛行機型にして、前方の羽で完全なバランス調整を図る。 (よし、完成だ!パーフェクトイカ飛行機でゲソ号!) 俺はアイツ目掛けてパーフェクトイカ飛行機でゲソ号を飛ばした。 (お、完璧な安定感!) コンッ ついに!パーフェクトイカ飛行機でゲソ号はアイツにヒットした。 やった!これでアイツが起き上がれば、顔を見ることが… しかし、アイツは微動だにしなかった。 (クソッ!ああ!アイツ!これくらいじゃ起きやがらねぇ!) 攻撃力が足りない!こうなったら、先端にこの画鋲を… bg "bg\教室.jpg", 2 遂に完成したぞ。 このスペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」が。 改良に改良を重ねたこのフォルムには、もう不安な点は一つも見当たらない。 スペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」を飛ばせば、アイツは飛び起きて、その正体を現すだろう。 その未来はもうこの手の中に掴んだ。完全だ。未来が見える。 …… もう、いいのかもしれない。 スペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」を飛ばすということは、 つまり核兵器のスイッチを押すことと同義だ。 100%の勝利。俺はその勝利を追い求めてここまできた。 しかしどうだろう。100%の勝利というものは、なんとも味気ないものだ。 このスペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」は、そんな味気ないもののために作ったのではない。 俺は本当はただロマンを追い求めてがむしゃらに走ってきただけなのかもしれない。 そうだとすれば、スペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」を飛ばすということは、 今までの俺の全てを否定することになるのではないか? …危ないところだった。俺はこれを永遠に封印しようと思う。 それが最善。最善だ。 俺はスペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」を、静かに机に置いた。 田中「なにこれ!かっけぇぇぇぇぇ!」 突然前の席の田中がスペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」を見て目を輝かせた。 何だ一体。もうスペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」は封印するのだ。 まあ、最後にスペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」を見ることが出来て幸せだったな。田中よ。 田中「これすげぇ!投げるよ!」 え? シューゥゥゥウウッ! ヒューッヒューッヒューッン! ドッドドドドッドオドオン! 「なんだ!爆撃だぞ!」 「逃げろ!この学校はもうダメだ!」 「誰か、こいつを助けてくれ!足が!」 「…うっ…なんでこんなことに…」 先生「え?な、なに?え?なんで?」 bg black,2 学校は完全な焦土と化した。まさに地獄絵図だった。 これが、これが100%の勝利。まさにその象徴だった。 俺は、自分がこの状態を作り出してしまったという愚かしさに震えた。 封印するなど甘っちょろかったのだ。 あんなものを作ることが出来るこの俺の手。俺の頭。それごと完全に破壊しなければならなかったのだ。 俺は道を誤った。 しかし一つだけ言いたい。 作り出されたものには罪はない。 スペースシャトル型汎用爆撃高速戦闘機「アメンホテプ改」は、その使命を全うしただけなのだ。 goto *title_btnloop *c117 bgmstop シャープペンを投げよう。 手段を選んではいられない。 絶対にアイツの正体を突き止めなければならないのだ。 たとえ停学、退学になろうが、犯罪者として拘束されようが、全世界から人でなしと罵られようが、それが何だというのか。 俺には目的がある。しかしそのために「本気」を出せる人間がどれだけいるか。 俺はそんなやつらとは違う。俺は躊躇しない。 本気を出して初めて、作戦の成功率は0でなくなるのだ。 bgm "bgm\テンションアップ\Don't Look Back!!.mp3" 斉藤「でやぁ!」 シュッ 俺はシャープペンを完全な軌道で投げた。 キンッ しかしシャープペンはアイツに後ろ手ではじかれた。 (ぬっ!?気付かれたか!) 俺はすかさず次の攻撃にでた。三角定規とコンパスを同時に完全なコンビネーションで投げた。 これは絶対にかわせまい! キキキンッ しかしそれらすべては同じく後ろ手ではじかれた。 しかもはじかれたばかりかそれら全てがこちらに向かって飛んできている! 斉藤「クソッ!」 俺は必死にヘッドスライディングでそれらをかわした。 すぐにアイツに向き直ったがアイツは既に教室を後にしていた。 俺もすぐに教室を後にして走り出した。 (クソッ!クソッ!何が「本気」だ!) 俺は自身の愚かさを呪った。 (俺は自分の本気に酔っていた!本当の本気なら、あのときに文房具を全て連続的に投げ続けるべきだったのだ!  アイツが余裕を持っていた初手、初手からの全力攻撃しか勝機はなかった…!) 現に今は最悪の状況である。 こちらは主な文房具は全て使い果たし、アイツはもう机に座ってもいないし後ろ手で戦うこともしないだろう。 こちら側のアドバンテージは全て消えた。ここからは俺が標的にされる。 ただ狩られるのを震えて待つのみではないか…! ただ一点だけ勝機があるとすれば、「コレ」だ。 「コレ」がアイツに知られていないだろうということだけである。 シュッ 斉藤「うわっ!」 俺は横からの突然の攻撃を何とかかわした。 そして愕然とした。 俺が立っていた場所には、無数の彫刻刀が突き刺さっていたのだ。 斉藤「くそぉ!アイツ美術部か!?」 俺は走った。コレを使うためにはここではダメだ。 シュッ シュッ シュシュッ 斉藤「くっ!ぐわぁ!」 何本もの彫刻刀が身体をかすっていく。 アイツ何本彫刻刀もってやがるんだ!? しかしどうにか目標の場所へたどり着いた。 そう。屋上だ。 俺は屋上のL字の部分へ走った。 屋上は入り口がひとつしか無い分、アイツも迂闊には入ってこられない。 狙い撃ちにされる危険があるからだ。 その隙に、俺は仕掛けを済ませる。 …… ギィ… 屋上の扉が開き、アイツが姿を見せる。 アイツ「もう逃げ場はないね。観念したのかい?」 斉藤「そんなに用心してここに来たってのに、俺が諦めてると思ってるのか?そうならもっとスッと入ってくればよかっただろ?」 アイツ「ふぅ…これは口上、さ!」 アイツはそう言うと彫刻刀を目にも留まらぬ速さで投げてきた。 しかしその手は食わない。このままアイツを誘導して… (!?) ブシュッ 斉藤「ぐわああああああ!」 俺の腕にカッターの刃が突き刺さっていた。 斉藤「くそっ!なぜ見えなかったんだ!」 アイツ「スピードの差だよ。今まで空気抵抗の大きい彫刻刀ばかりわざと投げていたからね。」 (やられた!腕を封じられた!) しかし防御に不安はあるものの、最も大事な仕掛けは既に終わっているので、まだ可能性はある! (とにかく誘導しなければ!) アイツ「ホラッ、避けないとっ、痛いよ!」 ブシュッ ブシュッ 斉藤「ぐっ!うっ!」 カッターの刃が右足と胴に突き刺さる。 俺は遂に走ることが出来なくなった。 アイツ「ここまでのようだね。最後はこのシャープペンで終わらせてあげよう。」 (その余裕が、) 俺は最後の力を振り絞って校舎から飛び降りた。 アイツ「何だと!?」 焦ったアイツは俺の様子を見ようと身体を乗り出した。 (命取りだっ!) 俺はコレを思いっきり引っ張る。 アイツ「う…ぎゃぁぁぁぁぁ!」 アイツの身体にコレが食い込んで自由を奪っていく。 アイツ「何だ!?これはいったい!?」 斉藤「コレは釣り糸さ。俺は釣りが趣味でね。昨日帰りに買ったんだけど家に置いてくるの忘れちまってさ。」 ネタばらしだ。屋上の手すりに引っ掛けた釣り糸でアイツを縛り上げた。 俺は飛び降りた振りをして、1段下の段差に降りただけだ。 アイツ「クソッ!放せ!」 斉藤「手は抜かない。「本気」でいく。」 俺は躊躇なく糸をさらに引っ張った。 bgmstop アイツ「ぎゃああああああああああ!」 ブツッ アイツはいくつかに分かれて地面へ落ちていった。 (勝った…) 俺は意識を失い、その場に倒れこんだ。 bgmstop bg black,2 後日、俺は『アイツ』の顔をじっくりと拝ませてもらった。 結局『アイツ』が誰だったのかは見ても分からなかった。 しかし、「本気」でやりあった仲だ。 『アイツ』が何だったのか、だいたいは感覚で理解できていた。 もしかしたら、また合うこともあるかもしれない。 そのときは、最初からの「本気」でやりあいたいものだ。 こんな拾う形の勝利ではなく、圧倒的な、100%の勝利をおさめたいと思う。 goto *title_btnloop